第14話・三者共同戦線「悪いプライドは棄てちまえ」

 グリーン・カラードの軍事施設──悪宰相デュラ・ファンは、不機嫌そうな顔で軍隊ブーツを履いた両足を机の上に乗せて椅子に座り、頬杖をして目前のセレナーデを眺めていた。

 デュラ・ファンの背後には、銃身の長い長身銃を持って並び立つグリーン・カラード人の女性兵士たちがいる。

 悪宰相デュラ・ファンは、反逆の恐れが少しでもある下級兵士のイエロー・カラードたちのクーデターを用心して、建物の敷地内への立ち入りを禁止している。


 銀牙系の武器文明レベルは各惑星で異なり、刀剣が主流武器の星があれば、ビーム兵器やそれ以上の超科学文明兵器が主流の星もある。

 ちなみに、バイ・カラードの兵器文明レベルは、弾丸と火薬が主流の火器文明だった。


 机の上に資料用紙を置くことができないセレナーデは、手に用紙を持って、デュラ・ファンに手渡す前提で法秩序の必要性について力説する。

 熱く語っているセレナーデの後ろには、単眼の運転手ロボットが立っていた。

「ですから、侵略行為からはデメリットしか生じず……他惑星では国家同士での平和的な取り決めが……」

 デュラ・ファンが片手を挙げて「撃て」の指示を出すと。

 女性兵士たちの構えた銃の銃口から、弾丸がセレナーデに向かって飛ぶ。

 悲鳴をあげるセレナーデの前で盾となる、 単眼モノアイロボット、ロボットの外装に命中して床に飛び散り転がる弾丸。

 銃撃が止むと単眼ロボットが言った。

「ほら、言った通りでしょう……やっぱり、話しが通じる相手じゃないんですよ」

 ロボットの外装が、金属音を響かせて床に剥がれ落ちると、中から一つ目のメイド少女が現れた。

 単眼種族のメイド少女は、デュラ・ファンを軽く睨むとセレナーデの背を押して部屋から出ていった。


 数時間後──イエロー・カラードに着陸している、円盤形の法律事務所に意気消沈で戻ってきたセレナーデは、疲れきったように自分の机に伏せて顔を隠していた。

 事務所には、モップ生物に柄をつけて床掃除をしている一つ目のメイド少女と。

 ブラックコーヒーを飲みながら、宇宙船の円形窓から黄色い大地を眺めている、鬼人種族でモフモフの犬のような尻尾を生やした法律事務所の若き所長がいた。

 一本角を生やした所長が、机に顔を伏せて落ち込んでいるセレナーデを慰める。


「だいぶ、気落ちしているな……ホットココアでも飲むか?」

 伏せたまま顔を横に振るセレナーデ。

「所長は最初から、こうなるコトがわかっていて、あたしの初仕事を選んだんですか?」

「何事も経験だからな……銀牙系では、法秩序が確立されていない星も、まだまだ多い」

 一口、ブラックコーヒーをすすって所長が言った。

「時々、エリート大学の法律科を卒業したコトを自慢気にアピールする。鼻持ちならないヤツが雇ってくれと事務所に来るコトがある……オレが試しに選んだ初仕事の依頼内容を知ると、そんなヤツらは決まってこう言う。

『こんな仕事をやったら、自分のキャリアにキズがつく!』そんなヤツは即刻、事務所から出ていってもらっている……で、セレナーデ、君はどうする? このまま尻尾を巻いて依頼を破棄するか?」

 顔を上げて答えるセレナーデ。

「そんな無責任なコトはできません……どんな依頼でも仕事で受けた以上は、このまま最後まで、可能な限り続けます……この法律事務所の一員である限り」

「よく言った……これからどう進めるつもりだ?」

「わかりません、時間は待ってくれないコトは重々承知していますが……所長なら、この場合どうしますか?」


 犬の尻尾を振りながら所長が言った。

「そうだなぁ、オレだったら最初に、悪いプライドを棄てるな」

「悪いプライド? プライドに良い悪いの区別があるのですか?」

「あるぞ、悪いプライドは煮ても焼いても喰えない……悪いプライドを棄てたら、次にこの惑星バイ・カラードのコトを詳しく調べる。

特にグリーン・カラードとレッド・カラードの間で結ばれている取り決めについてを……重要な取り決めは以下の三つだ」

 セレナーデは静かに所長の言葉に耳を傾ける。


『レッド・カラードの赤い領土は協定により、グリーン・カラードから、侵略されない侵略除外地域となる協定が結ばれている』

〔ただし、侵略する緑色領土が無くなったらグリーン・カラードは協定を破り、レッド・カラードに侵略を開始する〕


『レッド・カラードが、敵国から軍事攻撃をされた有事には。グリーン・カラードは戦力を投入してレッド・カラードを防衛、敵国を撃退する』


『グリーン・カラード本国が敵国から、軍事攻撃をされた場合。協定によりレッド・カラードは無償で兵器をグリーン・カラードが望む数量だけ提供する』


 バイ・カラードの三つの取り決めを、伝え終えた鬼の所長が言った。

「オレのヒントはここまでだ……あとは君が自分の頭で考えて、どうすれば最適な方法に向かうかを決めなさい」

 セレナーデは、無言でうなづいた。



 数時間後──イエロー・カラードに、セレナーデに呼ばれて。

 織羅・レオノーラと、美鬼・アリアンロードがやって来た。

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