第13話・セレナーデ、惑星に降り立つ

 惑星バイ・カラードから『黒きナグルファル号』で、熱帯魚型の衛星級宇宙船【ナラカ号】に一時帰還した。

 美鬼アリアンロードは、船橋の分割スクリーンに映し出される。

 ナラカ号内の食料生産システムを見ていた。


 ブドウの房のように部位が連なり 並んだ培養液のカプセルの中で特定部位だけを、効率よく培養生産する畜産工場。


 成長剤を投与して、人間の身長を越えるほど、巨大に成長させた野菜工場。

 食用の昆虫を育てている工場もあった。


 クジラサイズの魚介類を養殖している、水槽では巨大な等身を越える巨大アワビにダイバーが、包み呑み込まれていくシーンも捉えられていた。


 人間の身長を越える、巨大な円筒形の肉塊を削ぎ落とす作業をしている、個別スクリーンの映像を見ながら美鬼が言った。

「きょほほほほっ、培養したガン細胞生成肉の、ナラカ号内流通も順調のようですわね……いずれは各惑星での、美鬼ブランドのガン細胞肉のプラント生産もはじまりますわね……その第一歩として、ぜひともレッド・カラードのプラントは必要ですわ」


 美鬼が指を鳴らすと、分割されていたスクリーン映像が、一枚映像に切り替わり。

 宇宙に浮かぶ『水球惑星』の映像に切り替わる。

 細胞のようにも見える、水の惑星を眺めながら美鬼が言った。

「バルトアンデルス文明と、デミウルゴス文明の両方に酷似した、伝承が残る不可侵の『水球惑星』……見守るしかありませんわね……きょほほほほ」

 美鬼は、乾いた灰色ミイラのような、アリアンロード第一将・軍人ゲシュタルトンからの報告で。

 織羅・レオノーラの双子の姉で法律関連の仕事をしている、織羅・セレナーデがイエロー・カラードに降り立ったと聞いて、静かにうなづいた。


 イエロー・カラードの村──村から少し離れた場所に、四脚の着陸アームを伸ばした銀色の円盤が着陸していた。

 数階建てのビルに相当する大きさの、移動式の法律事務所。

 着陸した円盤型の法律事務所の前には、生け贄少女サクリ・ファイスが立っていた。

 階段上のハッチが開き、中から鮮やかなシアン色の青髪に白銀の房髪が走るインテリ眼鏡をした。

 タレ目気味の織羅・セレナーデが降りてきてサクリ・ファイスの前に立つ。

 意外そうな顔で少女を見るセレナーデ。

「あなたが、無料お試し期間の依頼者?」

「サクリ・ファイスです……サクリと呼んでください、お願いします法律の先生」

 先生と呼ばれて少し満足げな表情をする、見習い法律家のセレナーデ。


「まぁ、うちの法律事務所に所属する所員は、弁護士や司法書士や家庭裁判所調査官も兼用して行う複合型だから──安心して、お姉さんに任せなさい」

 セレナーデは、自分の胸元を拳で軽く叩いて……ムセる。

 周囲を見回して大人がいないコトに、少し疑問視するセレナーデ。

「大人の人は? この村に亜空間通信の私設でもあるの?」

「祈りです、あたしの家系は祈る力が強い者が、たまに生まれる血筋なので」

「あぁ、亜空間通信機器を使わなくても、通信のように空間に意思を飛ばすコトができる。銀牙系の少数種族か」


 セレナーデは内心。

(これが、あたしの初仕事か……いくら依頼料無料の、お試し期間だからって所長もこんな簡単な依頼を選ばなくても……さっさと終わらせよう)

 そう思っていた。その時は……。


 セレナーデがサクリ・ファイスが見ている前で、事務所円盤に向けて小さなキーホルダーのようなモノのボタンを押すと。

 円盤の下部が昇降して、車輪が無くて空中に浮かぶ、クラッシックな流線型の屋根なし『オープンエアーカー』が降りてきた。

 エアカーは、水陸空万能で翼を出せば飛行、タイヤを出せば走行、水上を走ったり潜水移動も可能だ。

 エアーカーの運転席には、光点の単眼を左右に動かしている。

 レトロなロボットが一体、ハンドルを握って座っていた。


 助手席に乗って、シートベルトを締めたセレナーデが、サクリ・ファイスに言った。

「それじゃあ、レッド・カラードとグリーン・カラードに行って。それぞれの代表者に会って改善の交渉をしてくる……法の力で」

 そう言い残して、初仕事に織羅・セレナーデは意気揚々と走るエアーカーで、レッド・カラードとグリーン・カラードに向かった。


 レッド・カラードの工業地帯、鬼畜党首ヴァン・パイルのいる建物の一室──セレナーデは、用意してきた多数の用紙を机の上に並べて、熱く各惑星の労働法について熱く語っていた。

「ですから、多くの惑星では労働者の基本的な権利が守られ保障されていて──この、レッド・カラードでも労働者に対す正当な保障を、行うべきで……」

 セレナーデに背を向けて、窓際に立ち赤い飲み物を飲んでいたヴァン・パイルは、赤い液体が端から滴る唇を手の甲で拭うと。

 持っていた液体が入ったグラスの中身を意図的に、机の上にセレナーデが並べた用紙の上に垂らして言った。

「おっと、うっかりこぼしてしまった……レッド・カラードに他の星の法律は通用しない……お引き取り願おうか」

「ですが、過酷な労働の影響で、すでに労災の発生も」

 セレナーデを凄んだ目で睨む、ヴァン・パイル。


「お引き取り……願おうか、わたしは忙しい」

 部屋に入ってきた、イエロー・カラードの工場作業員たちが、セレナーデの両腕をつかんで部屋の外に連れ出す。

 両側から腕を引っ張られながら、自己の主張を続けるセレナーデ。

「あなたたち、それでいいの! このままだと、労働環境が永遠に改善のされない、ブラック企業に一生!」

 セレナーデは、建物から強制的に外に放り出された。停車しているエアーカーの運転席に乗っているレトロなロボットが、立ち上がって膝の土を払っているセレナーデに、赤い光点単眼を左右に動かしながら訊ねた。

「大丈夫ですか? セレナーデさん、一応グリーン・カラードの方にも行ってみますか?」

 インテリ眼鏡の縁を押さえる、織羅・セレナーデ。

「もちろん、法の力で解決してみせる……妹のレオノーラが、この惑星に来ている限りは無法なバグの乱暴な解決法法よりも、法の力の方が優秀だと教えてやる」

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