第5話・豪烈遭難

 織羅・豪烈は遭難していた、宇宙を移動する軟質岩石の雄の星の上で、大破した中古宇宙船の近くで仰向けに倒れて苦笑していた。

「へへへっ、遭難しちまったぜ……今回ばかりはダメかもな、ルルルのヤツは単独冒険で最後の妖精族が発見された星に向かっていて、連絡とれねぇしな」


 次の冒険星の【虫喰い惑星】に向かう途中に発見した、ピンク色をした奇妙な小惑星。

 スポンジのように、少し凸凹した惑星の地質を測定した結果、軟質岩石だと判明した瞬間。

 いつもの悪いクセで、どのくらい柔らかい星なのか試してみたくなった豪烈は。

「ひゃはぁぁぁぁぁ!!」

 と、叫ぶと。四十五度の進入角度で小惑星の山斜面に中古宇宙船で突っ込んだ。

 良い言い方をすれば『好奇心旺盛なチャレンジャー』別の言い方をすれば『無謀なバカ』

 案の定、想像していた以上の固さに中古宇宙船は、二度・三度バウンドすると。バラバラになりながら斜面を転がり落ちて最後には、操縦席から豪烈は放り出された。

 斜面に見事なほど三角形に拡散して、粗大ゴミ化する中古宇宙船。

「参ったな救援信号出す間もなかったな……中古宇宙船だから、自動的に救援信号を発信する機能は無かったな……ははは」


 幸い大気があった小惑星に、全身打撲で倒れた豪烈は拳で星の表面を叩く、底反発マクラのように柔らかい地表は豪烈に叩かれてブルッと震えた。

「生きている星か……宇宙は広い、雄かな? 雌かな? この星」

 見上げる星空の星々は、移動していた。小惑星自体が動いていた。

 もう何日も、食べ物を口にしていなかった。

「腹、減ったな」

 いきなり、豪烈は近くに飛散していた宇宙船のナイフのような破片を手にすると、生きている小惑星の表面を削いで食べはじめた。

 豪烈に食べられて、ブルッブルッ震える星。

「美味いじゃねぇか、この星……全身打撲の痛みが消えていく」

 豪烈のこの行為が、後に『太歳』と呼ばれる。銀牙系共通の万能食材発見のきっかけだった。


 星を少し食べて元気が出た豪烈は立ち上がると、宇宙船の破片を拾い集めてパズルのように組み合わせはじめた。

 大破した中古宇宙船を復元しようと座席とコックピットの一部までは、なんとか完成した豪烈は操縦席に座って満喫する。

「こりゃ、全部組み立てるまで。どれだけ時間がかかるかわからないな……自力で宇宙船を作るより、先に墓を作る方が簡単か」

 豪烈は宇宙船の破片をX型に組み合わせて、地面にブッ刺した。刺された星がブルブルと震える。

 豪烈は完成した墓に向かってひざまづくと、中指と人差し指を交差させてアポリア大学がある、惑星アポリア風の下品な言葉を口にした。

「『安らかに眠って二度と起きてくるな、クソ野郎』……う~ん、何か違うな、自分の墓を作るより他にやるべきコトがあるような気がする」


 豪烈がそんなコトを考えていると、小惑星に降下してくる二隻の宇宙海賊船が目に入った。

 豪烈が見上げる海賊船に付いている紋章は『キャプテン・鳳凰』の船と『キャプテン・朱雀』の紋章だった。

「こんな時に、宇宙海賊かよ……どうせ、身ぐるみ剥がされるなら、今のうちに……」

 潔く脱衣して、全裸になる織羅豪烈。

 着陸した海賊船から一人で降りてきて豪烈に近づいた、男性のキャプテン・鳳〔ほう〕が、全裸で立つ豪烈を見て言った。

「服を着ろ!」


 豪烈は、キャプテン・朱雀の海賊船の方に、鳳から乗船するように言われて保護された。

 朱雀の船の中では、歌劇団の男装した女優のように背中に深紅の羽飾りをつけた。女性のキャプテン・朱雀が歌いながら豪烈を迎えた。

「♪たまたまぁ~通りかかって遭難しているのをぉ~発見しましたぁ。あなたぁ、運が良かったぁ♪」

 キャプテン・鳳が言った。

「海賊だからって、遭難者までむやみに襲って略奪はしないからな……朱雀の船で、送ってもらえばいい。おまえどこへ行く途中に遭難したんだ?」

「虫喰い星に行く途中だった」

「あの、採掘されている星か……朱雀、この男を虫喰いの星まで、送ってやれ」

「♪了解しましたぁ~っ♪」


 キャプテン・鳳が豪烈に言った。

「じゃあ、オレは自分の船にもどるからな……最近は別世界から来た【異界サルパ軍】なんて妙な連中が銀牙系をうろついているから困る。

おまえも宇宙では気をつけろよ。

異界サルパ軍の連中は海賊よりもタチが悪い、オレたち銀牙の宇宙海賊もどうしたらいいものか思案中だ」

「連合でも組んで立ち向かったらどうだ、バラバラで動くよりも効率がいいだろう」

「ふむっ、海賊連合か……集結しつつある異界サルパの連中に対抗するには、それが一番の得策だな……キャプテン・白虎やキャプテン・玄武あたりなら連合結成に協力してくれそうだ……いいアイデアをありがとうよ」


 豪烈に背を向けて、数歩ほど歩いたキャプテン鳳は立ち止まると、横目で豪烈を見ながら訊ねた。

「名前を聞いてなかったな……オレはキャプテン・鳳、おまえの名前は?」

「豪烈だ、織羅・豪烈」

「豪烈か、覚えておこう」

 キャプテン・鳳が朱雀の船から去り。

 豪烈は朱雀の船で【虫喰い惑星】へと送り届けられた。



【虫喰い惑星】──バックパックを背負った豪烈は、虫喰い惑星の古書店で入手した『星グルメガイド』を片手に、惑星の山道をさ迷っていた。

「この辺だけれどな……変だな潰れたのか? 山賊料理の店?」

 豪烈の頭上の高い枝には、クモのように体から糸を出して樹上移動をしている『スパイダー・モンキー』の群れがあった。

「森の木の真ん中辺りに、山賊の店があるってガイドブックには書いてあるが? どこだ?」

 キョロキョロしている豪烈の頬に、いきなり冷たい金属の銃口が押し当てられる。

 目だけを動かして横を見ると、木の枝葉でカモフラージュした十六歳前後の少女が、鋭い目で豪烈を睨みながら光弾ライフル銃の銃口を押し当てていた。

 髪のセンターから、赤いバーミリオン色の髪と青いシアン色の髪に見事に分かれた少女が言った。

「ここで何をしている……ここは、あたいたちの縄張りだ」

 少女に続いて、豪烈の前方の茂みから毛皮の皮チョッキを着て手斧を持った男や、顔に迷彩メイクをして光弾銃を腰から下げた男たち数名がゾロゾロ現れる。


 男たちは、それぞれナタのような蛮刀や、打撃武具を持っている。

 両手を降参ポーズで挙げた豪烈が、頬に光弾ライフル銃の銃口を押し当てている少女に言った。

「山賊……だな、おまえたち」

「海賊や馬賊に見えるか、山にいるから山賊に決まっているだろう……こっちの質問に答えろ、おまえ何者だ」

 山賊の一人がレトロなカメラのレンズを、両手を上げた豪烈と光弾ライフル銃を持った少女に向けて言った。

「若頭、一枚写しておきますか?」

「おう、後々なにかの役に立つかも知れないからな……ほら笑え」

 両手を挙げた豪烈は、白い歯を見せて苦笑いしている姿を写真に写された。

 若頭と呼ばれた少女が、銃口をグリグリと押し当てる。

「五つ数えるうちに、名前を言わないと頬に二つ目の口が開くぞ……ひと」

「豪烈だ、織羅・豪烈だ、織羅、織羅、織羅、織羅!!」

「こいつ、数える前に言いやがった……んっ? 織羅・豪烈?」

 少女は豪烈の頬から銃口を外す。

「確か『織羅家の大バカモノ』と言われている、あの男か……少し前に盗賊だらけの星で盗賊に捕まって、身代金を請求された織羅家当主の織羅・銀豪から

『煮るなり、焼くなり、炒めるなり好きにしろ』と言われて。同情された盗賊から反対に金渡されて釈放された、あの豪烈か」

「おうっ、その豪烈だ。そろそろ手を下ろしてもいいか……疲れてきた」

「好きにしろ、あたいも自己紹介してなかったな……アリアだ、見ての通り山賊の若頭やっている……おいっ、おまえ何か服脱いでいるんだよ!」

 パンツの縁に指をか

けて少し下げはじめた豪烈が言った。

「だって、山賊なら身ぐるみ剥がすんだろう……だったら今のうちにスッポンポンになった方が」

 赤面するアリア。

「バ、バカ! それ以上パンツ下げるな! 服を着ろ!」 

 着衣した豪烈を見て、落ち着いたアリアがクスッと笑う。

「豪烈、おまえ面白いヤツだな気に入った」

 アリアは豪烈が持っていたガイドブックを拾い上げると、ペラペラとめくってあるページを凝視してから言った。

「もしかして、この古いガイドブックに載っていた山賊料理の店を探して、ここまで来たのか?」

「知っていたら教えてくれ」

「この店は、あたいの親父が山賊稼業の片手間にやっていた店だ、数年前に閉店して今はない……店自体は、木の上にツリーハウスで残っていたが、数週間前の嵐でどこかに飛んでいった」

「親父さんは?」

「山賊の親父は、山で大口開けて洞窟のフリをしていた大山猫の口の中に、気づかずに入って胃袋で消化されて消えた……その時、持っていた山賊料理のレシピも親父と一緒に、大山猫の排泄物になった」

「そうか……残念だな」

 光弾ライフル銃を肩に担いで、微笑みながらアリアが豪烈に言った。

「ついてこい、この辺りは夜になると野性動物がうろついて危険だから、あたいたちの山賊アジトに泊まっていけ」

 アリアを先頭に山賊たちが歩きだして、豪烈は列に挟まれる形で山道を登り、山賊のアジトに案内された。


 アリアたちのアジトは、密集した木の中間に木製のハシゴやロープを張り巡らして造られた、ツリーハウスの空中村だった。

 木の中間にある家に入った豪烈が、どうしてこんな場所に住んでいるのかとアリアに質問すると、胡座座りをしたアリアが答えた。

「木の下だと夜になれば危険なケダモノが、餌を求めて地面をうろつく……木の上部はスパイダー・モンキーたちのテリトリーだ、あたいたち山賊は中間に家を造って住み分けをしている」

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