第10話・第七章ラスト
ドーナッツ型惑星【トーラス】の中空を挟んだ、両側にそれぞれ戦艦サイズの子ナラカ号と、鉄アレイを交差させたような形の要塞戦艦が対峙を続けていた。
要塞戦艦のネージ皇帝は面食らっていた、跳躍航行したら向かい側に、戦艦サイズの吸盤付きナラカ号──その背後に衛星級宇宙船のナラカ号が控えていた。
(どうして? アリアンロードの性悪女の宇宙船が惑星トーラスに?)
ネージが困惑していると、宇宙空間に巨大な美鬼アリアンロードの姿が映し出される。
宇宙空間に浮かぶ、美鬼アリアンロードが高らかに笑いながら言った。
《きょほほほっ、あたくしの要望はただ一つですわ。この場から尻尾を巻いて逃げ出しなさい……トイレでウ●コでもしていなさい──そうすれば、許して差し上げますわ。きょほほほっ》
性悪女の言葉にネージがキレる。
要塞戦艦から、ウニのトゲのように砲身が突き出して、子ナラカ号に向かってビーム砲の一斉に砲撃が開始された。
《きょほほほほ……よっぽど、遊んでもらいたいみたいですわね》
宇宙空間に浮かぶ立体映像の美鬼が、片手で子ナラカ号をかばうような仕種をする。
手の動きに連動した光学シールドが、ビーム砲を防御する。
要塞戦艦内のネージ皇帝は、我を忘れて怒り狂っていた。
「撃て! 撃て! 撃て! 沈めろ! 沈めろ!」
スパーナ将軍が横から、恐る恐る皇帝に助言する。
「アリアンロード家に本気で歯向かうと……後々、大変なコトになるだがや、そう言っていたのは皇帝あんただがや」
「うるさい! 面識の無いヤツからいきなり、あんなコトを言われて引き下がれるか! ビームが尽きるまで撃てぇ!」
子ナラカ号の船内で、片手の前に出す格好をしている美鬼が、ゲシュタルトンに言った。
「ゲシュタルトン、ゼブラ砲を使いますわよ。別次元に吹き飛ばしてやりますわ……エントロピーヤン、ナラカ号でゼブラ砲クジの開始ですわ……きょほほほっ」
ゼブラ砲発射決定がされた一報は、即ナラカ号で報道され、ナラカ号内がお祭り騒ぎに沸き立つ。
ナラカ号の街中では、乱立した予想屋の声が響き渡る。
「さあさあ、ゼブラ砲であの要塞戦艦の運命はどうなるのか? オッズはこれだぁ!」
「一攫万金を狙う者は、賭けた賭けた! ゼブラ砲発射まで時間が無いぞ、今が勝負の賭け時だぁ!」
「右側が消えるか左側が消えるか、上か下か、全部別世界に飛ばされるか、運良くこちらの世界に残るのか? 一大イベントのゼブラ砲クジだぁぁ」
子ナラカ号の口が開き、ゼブラ砲の発射準備が進む。
宇宙空間の美鬼が言った。
《きょほほほっ、要塞戦艦の上下左右のどこかに移動しなさい……運次第で別世界に飛ばされないで助かりますわよ、それでは……発射準備も整ったようなので》
宇宙空間に浮かぶ美鬼は、人差し指で要塞戦艦を示して言った。
《ゼブラ砲発射ですわ! きょほほほほほほっ!》
子ナラカ号の口から戦艦艦首砲サイズの、黒と白のマーブル模様光線が発射され、トーレスの中空を通過して要塞戦艦を直撃貫通する。
不思議な波長の光線だった──要塞戦艦の損壊はなく、マーブル模様の光線が通過していくだけだった。
だが、それは効果が異なる二種類の光線を同時に発射することで……恐ろしい効果を生じさせる光線だった。
白い光線通過する時には、別世界に移行して、黒い光線が通過する時は銀牙系の世界に残る。
「うわぁ、これなんだがや? 変な感じだがや」
ネージ皇帝は、交互に体を通過していく光線で、戦艦内の風景とドラゴンが空を飛んでいる牧場的な異世界の風景が交互に見えた。
(なんだ? この攻撃は?)
やがて、マーブル光線がすべてが通過すると、ネージは額の汗を手の甲で拭って呟く。
「コケ脅しか……アリアンロードの性悪女も、たいしたコトは……」
ネージがそう思った時、傍らからスパーナの声が聞こえてきた。
「ネージ皇帝、なんか変だがね……片方の目に見える風景が異世界みたいな風景だがね、艦の窓から丸太を脇に抱えた女が丘に立っているのが見えるだがね」
スパーナを見たネージは「ひいぃぃぃ!?」と、悲鳴をあげる。
スパーナの体は半身が無くなっていた。
さらに、要塞戦艦の片側が別世界に飛ばされて消滅していた。
「皇帝どうなっとるだがや?」
腰が抜けたネージの耳に、宇宙空間に投影されて浮かぶ美鬼の声が届く。
《きょほほほっ、ゼブラ砲で異世界に飛ばされた生体は、時間が経過すれば元の銀牙空間にもどってきますわ……きょほほほっ》
床に尻餅をついたネージ皇帝は、そのまま気絶した。
異世界──突如出現して牧草地に刺さっている。
交差した鉄アレイ要塞戦艦の半分を、丸太を担いだ盗賊の娘『バイオレット・フィズ』が、丘の上で眺めながら呟いた。
「あれは、いったい何?」
ゼブラ砲発射後──惑星トーラスに異変が起きた。
惑星全体が電飾で輝きはじめた、それはまるで、トッピングされた宇宙のドーナッツだった。
美鬼がリズムに訊ねる。
「きょほほほっ、ゼブラ砲が通過した干渉影響で。惑星トーラスの眠っていた機能が復活したみたいですわね──気分はどうかしら?」
「なにか、華やいだワクワクする気分が続いています? 人生が楽しくなってきました。どうしちゃったんですか、あたし?」
「惑星と運命共同体の者は、その惑星が華やかになれば同じように気持ちも上向きになりますわ……ご覧はなさい惑星トーラスの真ん中を」
美鬼が指差した先には、中空の向こう側に別の宇宙空間が広がっていてカラフルな惑星群が、浮かんでいた──まるで遊園地のアトラクションのような惑星が点在していた。
「きょほほほ、これが惑星トーラスの本来の姿ですわ……トーラスは、リゾート型のアトラクションパーク空間に通じる入場ゲート……あの惑星ひとつひとつが、丸ごとアトラクション惑星ですわ……通過時に自動で入場料を徴収するシステムです。これからは、トーラスは繁栄しますわ……ネージ皇帝の目的は、あのパーク空間の惑星を基地化利用するコトでしたわ」
美鬼は惑星トーラスの表面に浮かぶ、バルトアンデルス文字で書かれた『ようこそ、バルトアンデルスパークへ』の文字に微笑んだ。
【惑星トーラスと『ゼブラ砲』~おわり~
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