第9話・惑星トーラスの美鬼アリアンロード
【惑星トーラス】宇宙に浮かぶ中空のドーナツ型惑星──ナラカ号でトーラスにやって来た、美鬼アリアンロード一行は。
ナラカ号と惑星を繋ぐ、ガレー帆船型の連絡宇宙船『黒きナグルファル号』で惑星トーラスに降り立った。
海洋が70パーセントを占める、惑星の浜辺に立った美鬼が傍らのリズムに訊ねる。
「まだ、新サルパ帝国は到着していないようですわね……百年予言石碑はどこに?」
美少女の頭からタコの触手が直接生えている、完体全ヒトタコ姿に変わったリズムが答える。
「あの浜辺近くの海に建造された、寺院にあります満ち潮には寺院に繋がる道が海中に没するんです……今は引き潮ですから、道が現れています。
父には美鬼アリアンロードが来るコトは伝えてありますから」
一行は海上寺院へと入った。
寺院には、僧正が被るような肩までの丈がある頭巾を被った。
頭部はヒューマン型のいかつい顔つきの男性で、体はウロコに覆われたメタボ半魚人のような容姿をしたリズムの父親がいた。
惑星トーラスの僧侶でもあるリズムの父親の手足は、なぜかヒレ手とヒレ足だった。
リズムの父親が言った。
「娘から聞いています、惑星トーラスにようこそ……惑星トーラスと共に我らはあらんことを……変ですね? わたしの知人から聞いたヒューマンタイプ異星人の姿は、首から下がウロコに覆われたヒレ手足で服を着ていないと? 聞いた通りの擬態をしたのですが?」
「きょほほほ……間違った情報が伝わってしまったようですわね……早速ですけれど、百年予言石碑を見せてもらえませんかしら?」
「拝観料は一人、五百ナグルナです──カード払いでも大丈夫です」
「きょほ? 有料ですか?」
人数分の拝観料を払い、寺院内にある百年予言石碑の場所に美鬼たちは案内された。
百年予言石碑は、想像していたよりも壮大で、高さ三十メートル・幅三百メートルほどの石壁に代々の僧正の神託を受けた予言の文字が、ビッシリと刻まれていた。
案内してきた僧正が言った。
「まだ、五分の一ほど壁には余白があります……未来の僧正が刻むスペースです……わたしが刻んだ文字は、ほらココに」
現僧正は、足元に近い位置に刻まれた予言文を指し示した。
屈むような姿勢で、美鬼はバルトアンデルス文字で彫られた、ミミズ文字を読む。
「ずいぶんと、汚いもとい……達筆な予言文ですわね、なるほど確かに、わたくしのコトが刻まれていますわね……性悪女と。
初代の僧正が刻んだ予言文はどの辺りに?」
「かなり壁端の上の方です、組まれた階段を上っていただかないと」
美鬼は、木製の階段を上り松明の明かりに照らされている、古い予言文を順番に目を通す。
美鬼の近くにいる、現僧正の呟き声が聞こえた。
「超古代のバルトアンデルス文字なので、今では誰も読める者はいません……なんと彫られているのかは不明です」
「きょほほほ……でしょうね、バルトアンデルス文字は、特別な文法である上に抽象的表現が多いですから。
加えて初代から数代までの僧正が刻んだ予言文には悪筆者や、達筆者の余計な詩に加え文法間違いに、方言や固有の名称まで入っている難解文になっていますわね……ふむっふむっ、なるほど……新サルパ帝国のネージ皇帝が、なぜ惑星トーラスを狙ったのか、その理由がわかりましたわ」
驚くリズムの父親。
「読めたのですか?」
「なぜか、昔から読めますわ……リズム、ナラカ号にもどりますわよ。
ゲシュタルトン、ミニ・ナラカ号を手配しなさい……そちらに乗り込みますわ」
ナラカ号にもどった美鬼は、親ナラカ号の下部に小判ザメのようにはりついている。
戦艦サイズのミニチュア・ナラカ号に移って。天井からシャンデリアが下がった豪華な部屋のソファに、グラディエーターサンダルの生足を組んで座り。
ネージ皇帝の到着を待っている間、ブラックコーヒーを飲みながらリズムに質問してみた。
「あなた……もう一つの名前はなんですの? 百年予言石碑の文字の中に、あなたのコトが示されていましたわ」
美鬼から質問されたアルゴ・リズムは、少し考えた後に小声で答えた。
「トーラス……です」
「やはり、惑星人柱の運命共同体にさせられていましたか」
エントロピーヤンが、ゲコゲコと美鬼に質問する。
「美鬼さま『惑星人柱』って何でゲロス? 初めて聞いたでゲロス」
「極少数の種族の間で行われる風習ですわ、生まれた子供に惑星と同じで隠し名を与え。
その子と惑星の運命を繋げる風習ですわ。惑星が元気な時は子供も元気になって、子供の元気が無くなれば惑星も元気が無くなって異常気象が多発しますわ」
リズムが言った。
「惑星トーラスの僧正の家系では代々、子供に惑星の隠し名をつけて惑星と運命共同体にします。お願いします、惑星トーラスを守ってください! あたし死にたくない!」
新サルパ帝国は惑星トーラスをチョコレートドーナツみたいに、コーティングしてから基地拠点惑星にするつもりらしいと……リズムは予言石碑で知ったと美鬼に伝えた。
「そんなコトをされたら、あたしの心と体は……どうなってしまうのか」
リズムの体がタコ触手から、着衣した少女の姿に変わり。
リズムは自分の体を、両手で抱き締め不安そうに震えた。
ソファから立ち上がった美鬼が、不安がっているリズムの頭を優しく撫でる。
「心配しなくても大丈夫ですわ、性悪女の通り名にかけて、惑星トーラスを守りますわ」
その時、部屋のスピーカーを通して、ゲシュタルトンの声が聞こえてきた。
《美鬼さま、惑星トーラスの中空の向こう側に、新サルパ帝国の要塞戦艦が現れました……ネージ皇帝のクロス型戦艦です》
美鬼が、笑いながら言った。
「きょほほほ、飛んで火にいるなんとやらですわ……きょほほほ、ゲシュタルトン! 戦艦サイズの子ナラカ号を親ナラカ号から離脱させて、新サルパ帝国戦艦とトーラスを中空で挟んだ向かい合う座標に移動を……身の程知らずに、歯向かってきたら──遊んであげますわ」
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