第8話・惑星カラビ・ヤウの織羅レオノーラ

 カラビ・ヤウ星域『惑星カラビ・ヤウ』──星域と同じ名称を有する、この惑星は銀牙系の中でも、形容しがたい惑星の一つとして知れ渡っていた。

 その惑星の形を言葉で表現するコトは難しく『随時変化する、カラビ・ヤウ多様体の形をした星』としか表現できなかった。

 たいした資源もない荒野が大半を占める惑星の住人は、恐竜の羽毛ラプトル種に酷似した知的生物だった。

 荒野を吹き抜ける風の中、体を球体に丸めて転がっていく、全長一メートル弱のヨロイ恐竜──風が吹く赤茶色の荒野に立つのは、ガンファイター姿の織羅・レオノーラ。


 レオノーラの前方には、土煙を上げて侵攻してくる新サルパ帝国の装甲戦闘車両隊。

 戦車からのレーザー砲撃で、レオノーラの周辺大地が爆発の土煙で霞む。

 土煙の中、銘銃『レオン・バントライン』を、レッグホルスターから抜いた、レオノーラの指先がトリガーを引く。

 土煙の中、銃口から発射された光弾の一条が的確に、無人操作されているレーザー戦車の厚い装甲板をぶち抜いて動力回路を貫通して、戦車を次々と爆発させていた。


 疾風がレオノーラを包んでいた土煙を吹き飛ばすと、背中側だけのワークパワーマシンのような機械スーツを装着して立ち、光弾銃を構えるレオノーラの姿が現れる。

 通常のレオン・バントラインの光弾発射だと、片腕に装着した緩衝アーマーだけで、光弾発射時の衝撃を吸収相殺できるが。

 威力が高い貫通弾や爆裂弾を発射する時は、衝撃緩和の自立電脳緩衝マシンがレオノーラの背後から光弾発射時の衝撃緩和を補佐する。

 衝撃緩衝マシンを装着したレオノーラが呟く。

「グットラック、ご安全に」


 戦車隊から離れた場所に設置された、軍用テントの中で数台づつ遠隔操作戦車をコントローラーで操作している、サルパ兵士の頭を合成樹脂のメガホンでポンポンと叩いて怒鳴る、スパーナ将軍の姿があった。

「なにやっとるだがや! 小娘一人にやられとるだがや! しっかりするがや!」

 頭を叩かれた兵士の一人が不満気に呟く。

「だって、しかたがないでしょう……相手はバグ・フリーダムの織羅家のお嬢さまですよ、手加減しながら本気出せなんてムリです」

「口答えをするなだがや! 父親が放任主義のお嬢さまでも、ケガをさせたら賠償金が発生するだがや! ネージ皇帝が到着する前に、この惑星を制圧するだがや……織羅家のガンファイターお嬢さまが、一時休憩で町の方にもどっただがや、こちらも休憩するだがや」


 緩衝マシンに乗って、西部劇風の町の入り口にある酒場の前に緩衝マシンを停止させて、マシンから飛び降りたレオノーラは酒場に飛び込む。

 酒場の中には、カウンター席に座った仁・ラムウオッカとアラバキ夜左衛門がいた。

 カウンター席に駆け寄ったレオノーラが、カウンターの中にいる蝶ネクタイをしたラプトル種の店主に向かって言った。

「冷たいミルクを一杯、氷はいらないから……もう喉カラカラ」

 羽毛恐竜型の店主が差し出した、冷えたミルクを一気に飲み干すレオノーラ。

「ぷはぁ……生き返った」

 カウンター席にいる、織羅家の執事で遮光器土偶型異星人の、夜左衛門が言った。

「レオノーラさま、極楽号から援軍を呼び寄せましょうか? 一気に攻めれば数分で戦車隊は全滅しますが」

「心遣いは嬉しいけれど、まだ大丈夫。ボク一人でやれるから……カラビ・ヤウの住人から、極楽号の目安箱に届いた助けを求める声だもん……ボクがガンバらないと」

 剣客バグの仁が言った。

「ヤバくなりそうなら、ムリしないで助けを求めてくれよ、レオノーラさま……助けを求めるのは弱さや恥じゃねぇからな……オレの剣波で戦車を真っ二つに横スライスしてやる」

「ありがとう、その時は頼むね……それじゃあ、休憩終わったから一戦交えてくる」

 レオノーラは露出した肌の部分に、液体性のボディーアーマーをスプレーすると。

 背面パワースーツにも汎用可能な、緩衝マシンを装着して戦場へと走って行った。

 中断していた爆発音が荒野に響き渡る。


 カウンター席でノンアルコールの、救世酒を飲みながら仁が言った。

「すっかり、バグ・フリーダムの顔つきになったな……レオノーラさま」

 仁はカウンターの中の羽毛ラプトル種の店主に、救世酒をもう一杯注文した時。

 夜左衛門に、極楽号で待機している鉄ウサギの月華から、連絡が入った。

「なに? 新サルパ帝国のネージ皇帝が巨大要塞戦艦で、カラビ・ヤウ星域に跳躍してきた? わかりました、レオノーラさまにお伝えします」

 

 荒野では、イラついたスパーナ将軍が部下の頭を、合成樹脂のメガホンでポンポンと叩いている。

「なんで、だがや! 視界が土煙で遮られても赤外線感知で位置は、わかるはずだがや!」

「緩衝マシンで高速移動しているんですよ、予測不能の縦横無尽の動きで」

「変形するだがや」

「へっ!?」

「無限軌道走行から、四脚歩行に変形させるだがや! 高い位置から狙い撃ちするだがや!」

「お言葉ですが、それは逆に機動力を低下させるだけで……特別な場合を除いて、あまりメリットは」

「うるさい! 指示した通りに四脚に変形させるだがや!」


 レーザー戦車が無限軌道から、四脚携帯に変形する。

 直後、レオノーラが発射した光弾が四脚の一本を破壊して、バランスを失った戦車はコケる。

 兵士が呆れた口調で呟く。

「だから言わんこっちゃない」

「戦車を連結させるだがや……ムカデみたいに連結させたら、コケないだがや」

「先頭車両を、貫通弾で狙い撃ちされたら終わりですね」

「だったら、カニみたいに横一列に並ばせて連結させるだがや」

「一台倒れたら、扇倒しになりますね」

 スパーナが、無意味な作戦を立てていると。

 空に鉄アレイがクロスして十字架になったような巨大要塞戦艦が、揺らぎ出現してネージ皇帝の声が聞こえてきた。

《なにをやっている、スパーナ?》

 空を見上げて叫ぶスパーナ。

「ネージ皇帝、すぐにこの星を制圧するだがや」 

《制圧するのは、この星じゃない【惑星トーラス】だ、また勘違いして……すぐに撤収しろ! 惑星トーラスに向かう》

「へっ!? またやっちまっただがや……撤収するだがや」

 スパーナは、戦車隊を輸送船に乗せると、何事も無かったように巨大要塞戦艦に輸送船を着艦させ。

 輸送船を収容した、鉄アレイをクロスさせて十字架になったような、巨大要塞戦艦は【惑星トーラス】へのショート跳躍で揺らぎ消える。

 レオノーラは、巨大要塞戦艦が消えた空に向かって。

「ご安全に」

 と、呟いた。


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