第5話『文字どおり』


連載戯曲 たぬきつね物語・5『文字どおり』


大橋むつお






時   ある日ある時


所   動物の国の森のなか


人物  たぬき  外見は十六才くらいの少年  

    きつね  外見は十六才くらいの少女 

    ライオン 中年の高校の先生

    ねこまた 中年の小粋な女医




ライオン: むかえ酒かい?


ねこまた: お、ライオン丸! あんたねえ、生徒にハンパな指導するのやめてくれない。余計なとばっちりで、はた迷惑よ!


ライオン: なんの話?


ねこまた: たぬきときつねに変なこと言ったでしょ。お互いの身になって考えろとかなんとか。


ライオン: え、ああ。いやあ、けんかばっかりしとるんでね。一発がつんと……


ねこまた: あの子たち、お互いの姿に化けあいして、どっちがどっちかわからなくなってしまているのよ。


ライオン: え?


ねこまた: 「お互いの身になって」ってところを文字どおり受け止めちゃったのよ。


ライオン: でも、たかが子だぬきと子ぎつね、化けたと言ってもたかのしれた……


ねこまた: これ、フォーウェイの最新型の化け葉っぱ。遺伝子レベルまでデジタル変換できるすぐれもの。親も教師も、もっと子供の持ち物には気をつけなくちゃ。


ライオン: それで、二人は?


ねこまた: いろいろテストしてもらちがあかないから、森の周回道路を走らせてんの。


ライオン: 走って、治る……っていうか効き目は?


ねこまた: あるわけないでしょ! 走ってくたびれりゃ、あきらめて、納得するんじゃないかって、それくらいよ。わたし、ゆうべの酒が残って、頭いたくって……


ライオン: そんな無責任な。


ねこまた: 無責任はそっち! 指導がはんぱ! 根性がはんぱ! すべてがはんぱ! ゆうべだって、なに? あの口びるのおもちゃ。あれでウサギ先生にキスしようとしたでしょ。


ライオン: しゃれだよしゃれ。ふんいきもりあげようと思ってさ。


ねこまた: セクハラだよ。そんなことだから四十を超えて、いまだに独身なのよ。


ライオン: あのな……


ねこまた: もう顔も見たくない、あっち行って!


ライオン: お、おれなあ……


ねこまた: まだいたの? 気が弱いくせにしつこいんだから。


ライオン: お、おれは……男としても教師としても、責任を持って……


ねこまた: 責任なんていいの。実際責任なんてカケラも思ってないんだから。あのね、わたしの言った言葉をきっかけに「失礼な!」とかなんとか言って、いなくなっちまえばいいのよ。そのきっかけをつくってあげてるの、わからない?


ライオン: そ、そんなことは嫌いだ!


ねこまた: そんなら、勝手にしなさい。あの子たち帰ってきたら、きっと許さないわよあんたのこと。




たぬきときつねがもどってくる。





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