第4話『ねこまたテスト』
連載戯曲 たぬきつね物語・4『ねこまたテスト』
大橋むつお
時 ある日ある時
所 動物の国の森のなか
人物 たぬき 外見は十六才くらいの少年
きつね 外見は十六才くらいの少女
ライオン 中年の高校の先生
ねこまた 中年の小粋な女医
ねこまた: そうね……テストその一。
二人: その一!
ねこまた: ここに一個のミカンがある。ミカンをどうやって食べる?
きつね: えと、皮をむいて……ね。
たぬき: うん、中の皮は、そのまんま食べることもある。
ねこまた: そう、ミカンは、むいて食べる。
二人: はい。
ねこまた: じゃ、問題。ミカン一個は食べられる。三個でも、四個でも、五個でも食べられる。そうだね?
二人: はい。
ねこまた: では、二個のミカンは食べることができない。どうしてだ?
きつね: え……どうして?
たぬき: わたし……ぼく、わからない。
ねこまた: ようく考えて!
きつね: これってテストなんですよね?
ねこまた: テスト!
たぬき: 答えられたら、どっちなんですか?
ねこまた: そんなの言ったらテストにならないだろうが。
きつね: えと……えと……
たぬき: ううん……
ねこまた: ブー、時間切れ! いいか、ミカンが二つでムカン。ミとミ、つまり三と三で六。つまりム。でムカン。むかんではミカンは食えない。
二人: え……?
ねこまた: むかないミカンは食えないだろうが。
たぬき: で……
きつね: ね、ムカンでは食べることができない……
三人: ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!
きつね: それがテストなんですか?
ねこまた: そうさ。きつねとたぬきでは、きつねの方がかしこい。イソップの童話とか日本昔話とか、みんなそうだ。だから、このクイズで、正解を出した方がきつね……だったんだけどねえ……
二人: ……
ねこまた: よし、次にテスト。ここに酒びんがある。
たぬき: お、猫じゃら酒の大吟醸!
きつね: 飲みのこしですね。
ねこまた: いい酒だからチビチビやって、かえって悪酔いしちゃって……んなことはいいの。この半分のお酒を、言葉で表現して欲しいの……待った、口にするんじゃなくそこのメモ帳に書く(二人書く)書けたらかして……なんだこりゃ。「酒びんの中の二分の一の酒」「二分の一の酒の入った酒びん」
きつね: あの……
たぬき: 違いました?
ねこまた: 数学の答えじゃないんだから。半分という事実の前か後につく言葉があるでしょ。
きつね: と、いうと?
ねこまた: まだ半分残ってるとか、もう半分しか残ってないとか。
たぬき: で、これは……
きつね: どういうテストなんですか?
ねこまた: たぬきなら、楽天的だから「お、まだ半分残ってる。一杯やろうぜ!」になる。冷静なきつねなら「もう半分しか残ってない、いそいで買いに行こう!」と……一昔前なら、こういう答えがかえってくるんだがなあ……
二人: ……
ねこまた: よし、じゃあ次のテスト! 森の中の周回道路を、それぞれ反対側に走る。グルーっとまわって、また、ここで出会う!
たぬき: それって、早くついた方がどうとかあるんですか?
ねこまた: そんなこと言ったらテストにならないだろうが。いくぞ、ヨーイ……
きつね: 一周三キロもあるんですよ。
ねこまた: 全力疾走! と、その前に。化け葉っぱをよこしな。走ってる間に、また化けたら、ややっこしくってかなわないからね(二人、葉っぱを渡す)いいの持ってるね、ソフトマップの最新型だ。
たぬき: なくさないで……
きつね: くださいね……
ねこまた: さあ、いくよ。ヨーイ……ドン!
二人、上手と下手に去る。ねこまた、ため息ついてコップ酒をあおる。ライオンがやってくる。
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