第3話『遺伝子レベル』


連載戯曲 たぬきつね物語・3『遺伝子レベル』


大橋むつお





時   ある日ある時


所   動物の国の森のなか


人物


  たぬき  外見は十六才くらいの少年  


  きつね  外見は十六才くらいの少女 


  ライオン 中年の高校の先生


  ねこまた 中年の小粋な女医








ねこまた: しかし、きみたちね。ライオン先生の言葉をそのまんまやるか?


きつね: だって、先生は、お互いの身になれって……


たぬき: と、いうことは化けることでしょ?


ねこまた: 互いの気持ちをおしはかれってことよ! 今はしんどいかな、とか。気持ちがのらないのかな、とか。そうしたら、そこから人への思いやりがうまれるって、そういう意味よ。ライオン丸が、いえ、ライオン先生が言ったことは。


たぬき: そうなんだ……でも……


きつね: 先生とか学校は、いつもカタチが大事だって。服装とか髪がたとか……


ねこまた: バカか!?


たぬき: バ、バカだなんて……


きつね: そんな……


ねこまた: バカだからバカだって言ってんのよ!


きつね: だって、ぼく、いえわたし……


たぬき: ぼく……(きつねと共に泣く)


ねこまた: 泣いたって、もとにはもどらないんだからね。


二人: うわーん!


ねこまた: 泣くな!


二人: はい……


ねこまた: とにかく、治すことを考えよう。二人とも手ェ出して……(二人のカルテを手と見くらべる)指紋まで化けてんだね、きつねはきつね、たぬきはたぬきの指紋だちょいと血をもらうよ(二人の耳たぶをひっかき、プレパラートに血をとる。二人少し痛がる。虫めがねで血を調べる)うーん……


たぬき: なにを調べてるんですか?


ねこまた: 遺伝子(ずっこける二人)


きつね: そんなもんで遺伝子がわかるんですか?


ねこまた: ねこまた先生だよ、あたしは。


たぬき: で、どうなんですか?


ねこまた: ……だめ。


たぬき: やっぱりね。


きつね: そんな虫めがねで、遺伝子なんか……


ねこまた: わかったのよ遺伝子は……でもね遺伝子レベルで完全に化けてんの。


きつね: やったあ!


たぬき: ぼくたち、デジタル変化ですからね。なんべん化け直しても百パーセント完ぺきなんです!


ねこまた: 昔は、アナログだったからさ、どんなにうまく化けても、もとのらしさが残ったもんだけどねえ……百パーセント完ぺきねえ……


二人: えっへん!


ねこまた: 自慢してどうすんのよ。その完ぺきのために、どっちがどっちかわかんなくなってんでしょうが!


二人: はい……(しょげる) 


ねこまた: よし、テストをしよう!


二人: テスト?


ねこまた: いろんなテストをして、二人の本当の性格を洗いだしてみるの。たぬきときつねは、同じ犬科の動物だけど、性格は、いろいろ違うからね。それをはっきりさせれば、どっちがどっちか、はっきりするわ。


たぬき: ぜひ!


きつね: やってください!



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