第40話 雨ニモ負ケズ

「ファール!」


二死ツーアウトランナー二塁の勝ち越しのチャンス! 朱護学園1番の小久保はファールで粘ります!』


 カウント2-2からの3球連続ファール。これで小久保は前の打席と合わせた2打席で17球を万谷に投じさせている。


(あー、ムカつくぜ……そういや俺の連続三振を止めたのもコイツだったし、初回にはいきなりスリーベースも打たれてたよな……ストレス溜めるバッティングばかりしてくる奴だ……)


(くっそ、中々失投が来ないな……球速もあまり落ちていないし、本当にコイツはスタミナお化けだ……)


 万谷は常時140km後半のボールを投げる高校トップクラスの速球派投手だが、本人が1番自信を持っている武器は無尽蔵のスタミナと頑丈な肉体だ。

 生まれつきの体の柔らかさと各部位の頑丈さ、そして徹底した基礎トレーニングによる努力が組み合わさって作られた故障知らずの肉体は、『令和のガソリンタンク』の異名に相応しいものである。


「……ボール!」


「……んなぁ!? そこ外れんのか!?」


(あっぶね、命拾いしたぜ……しっかし、もう11回だってのにまだあのコースにビシバシのストレート投げれるのかよ……スコアボードの球速は145km。序盤に比べちゃ落ちてはいるが、コースに決められて打てる球でもない……)


 カウントは3-2のフルカウント。一塁は空いているため、投手側は四球フォアボール覚悟で厳しい攻めをしてくると予想される。


(でも、万谷の性格上四球で逃げてくることは絶対にない……次を勝負球にして、俺を確実に三振に仕止めようとするはず……!)


 小久保はバットを拳半個分短く持ち、次に来るであろう万谷の決め球に備える。


(……さあ来い。俺の狙いは、もう決まってからよ……!)


(……これで、この回も終わりだ!)


 真ん中よりやや低めに投げ込んだ、146kmのストレート。そのボールに対して小久保は、叩きつけるようなフルスイングをぶつけた。


『打ったー! そして打球は高く跳ねるー!』


 小久保が狙っていたのは、自分の足を活かした内野安打。小久保はショートの手前に向けて、狙い通りの高いバウンドの打球を打ったのだが……


(思ったより高く跳ねねぇ! 雨でぬかるんだグラウンドのせいか!)


 打球は勢いが強かった最初のバウンドこそ高く跳ね上がったが、2バウンド目以降はぬかるんだ地面に勢いを吸われて平凡な、守備側にとっては捕りごろのバウンドへと変化する。


(だあぁー、畜生! 余裕でセーフの予定だったのに、これじゃギリギリ……いや、アウトになるかもしれねぇ!)


 小久保はその俊足をこれ以上ないほど飛ばして一塁へと駆ける。

 ぬかるむ土に足をとられないように、しっかりとスパイクの刃で大地を踏みしめながら。


「ショート! 間に合う! すぐ投げろ!」


「おうっ! ……っと!?」


 無駄な動きを極限まで省いたスムーズな動作で、ショートはボールを捕球し一塁へと送球しようとする。……が、雨で指とボールが濡れていたせいか、ショートは一瞬だけボールを掴むのに手間取ってしまった。


「ショートもたついた! 走れェ!!!」


「落ち着いて投げればまだ間に合う! 投げろ!」


「うおおおぉっ!!!」


 頭から滑りこんだ小久保の指先がベースにつくのと、ショートから送球されたボールが一塁手のグラブに収まるタイミングは……同時だった。


「セーフ、セーフ!!!」


「ぃよっしゃああぁ!!!」


「繋いだ、繋いだぁ!!!」


 小久保の気迫でチャンスは繋がり、ランナーは一塁三塁になる。

 小久保は三塁側の朱護学園ベンチに向かって吠え、それを見たベンチはさらに活気づく。


「ナイスラン、永遠クーン!!!」


 守も、もう落ち込んでなどいられない。まだまだ試合は続くからだ。

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