第16話 甲子園優勝チーム

 9月13日土曜日。vs青峰二せいほうに戦、結果は8-1で朱護学園の圧勝。主力組に立場が寄った守は、守備のみでの出場だった。


 9月14日日曜日。vs花崎徳瑛はなさきとくえい戦、結果は3-2で辛勝。守は9番ショートでフル出場し、3打数1安打。安打こそ1本だが、進塁打や盗塁でチームに貢献した。


 9月20日土曜日。vs横浜勇人よこはまゆうと戦、結果は6-2で勝利。守は途中出場で1打数1安打。同点からの勝ち越しのホームを踏んだ。


 そして9月21日日曜日。秋季大会前最後の練習試合を行うため、朱護学園ナインは再び東京にやって来ていた。


「……いよいよ今日は夏の甲子園優勝校、江大三との練習試合です」


 江大三野球部グラウンドへと向かう途中のバスの中で、結は部員全員に改めて江大三のチームとしての特徴を伝えていた。


「江大三の中心は、コア4とも呼ばれる夏の甲子園優勝メンバー4人。エースの吉武君、リードオフマンの畔柳くろやなぎ君、そして3、4番コンビの横山君と高尾君」


 江大三に夏の甲子園優勝をもたらしたのは、2年生レギュラーだったこの4人の活躍あってのものである。

 彼らが健在な限りは、たとえ3年生が引退しようともチーム力が落ちることはなく、むしろ最上級生になってさらに力をつけると予想されてこの秋、春も優勝の筆頭候補にあげられている。


「畔柳は確か甲子園の打率が5割越えてたっけ? 2年でそれはエグいよなぁ~……」


「横山と高尾の決勝戦での2者連続ホームランは正直痺れた……俺達が手も足も出なかった城之内じょうのうちから、あそこまで豪快なホームラン……」


「吉武も最初はただの控え投手かと思いきや、エースのケガで緊急登板した試合で完封。そこから一躍甲子園のスターになるんだから……不思議なもんだよなぁ……」


 甲子園で鮮烈なインパクトを残した4人の情報は、当然朱護学園ナインもよく知っている。結が語るまでもなく次から次へと彼らについての情報は出てきて、どうやってそんな化け物達を抑えるのか、打ち崩すのかについての議論が活発に行われる。


「……お前達! お話はそこまでだ。……着いたぞ、敵地に」


 東京、町田にある立派なグラウンドの駐車場にバスは止まり、それと同時に朱護学園ナインも戦争のための心を整えて表情を変える。


 バスから降り、いよいよ試合が行われるグラウンドに足を運ぶと、そこには……


「……礼ッ!」


「宜しくお願いします!!!」


 洗練された軍隊のごとき、一体感を持つ集団が待ち受けていた。


(……これが……夏の甲子園優勝校……まだ試合前だというのに、まだ挨拶をしただけなのに……もう、格の違いを見せつけられているかのような気がする……)


 挨拶を終えると、すぐに江大三は練習を再開する。

 とにかく江大三の練習は声が出ており、それも中身のない声出しではない。

 打球方向、送球先の指示はもちろん、どんな状況で誰がどう動けばいいか、打者走者がどう動くと、守備はどう動くのかを常に指示し続け、選手達がお互いの頭の中に絶えずグラウンド内の情報を流し続けている。


(……この声による連携が、江大三の洗練された守備を、つまらないミスのない完成された野球を作り上げているの?)


「……結……」


 江大三の練習風景に終始圧倒され続ける結に、守が静かに声をかける。

 この練習を見て、守は果たしてどう思っているのだろうか。それが気になった結は、すぐに守の方を振り向くと……


「……すげぇな、これ……」


 守は、笑っていた。まるで憧れのプロ野球選手に会った野球少年のように、その目を爛々と輝かせていた。


「……そうか……守備の形には、こういうのもあるんだな……」


「……まだ試合前なのに、もう収穫を掴んだの?」


「……ああ。早くこの守備を……甲子園優勝チームの守備を、実戦で見たい!」

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