第6話 TOKYO Battle

 9月7日、戦いの舞台は東京へと移る。

 秋のサバイバル期間中の朱護学園高校。今日の対戦相手は……今夏の甲子園、東東京代表校である名門、三杉学舎大みすぎがくしゃだい付属高校である。


「それでは、今日のスタメンを発表する」


 音羽監督が選んだ今日のスタメンは、現時点での理想のオーダー……すなわち、秋のレギュラーメンバーに最も近い9人だということだ。


「……9番ショート、森内!」


「……ハイッ!」


 そのスタメンの中に、守も名前を連ねた。ショートのレギュラーに最も近い位置にいるということを、守は監督から伝えられたのである。






「……三杉学舎の中心選手は、なんといってもエースで4番の中谷だ」


「夏の甲子園では5番ショートで打率4割、2本塁打、投げても14イニングで失点3、奪三振16の活躍でチームのベスト8進出に貢献、か……やれやれ、甲子園のスターはまぶしいねぇ」


 チームが試合前のアップをしている中、主将の船曳、副主将の沖田、マネージャーの結、監督の音羽が揃ってミーティングを行っていた。

 グラウンドに立つ船曳と沖田がライバル心剥き出しで三杉学舎ベンチを睨み付ける一方、音羽と結は冷静に相手の顔を見定めている。


「……分かりきっていたことだが、甲子園でベスト8に進んだからといって驕りは一切ないな」


「中谷君は準々決勝で負けた時、甲子園のグラウンドを何度も殴って悔しさをあらわにしていましたからね……むしろ、驕りとは正反対というべきチームでしょう」


「……楽しそうに投球練習してる今の姿を見ると、到底同一人物には見えねぇけどな……」


 一塁側の投球練習場では、中谷が白い歯を見せながら軽いウォームアップをしている。その姿は終始リラックスしたものであり、緊張感は欠片も感じられない。


「……俺ら、舐められてんのかぁ?」


「……そういうわけじゃないでしょ……中谷君は、試合以外ではいつもあんな感じよ……」


「……試合になると、アレは変わる」






「……しっかし、それまでが嘘のようにいきなり猛打賞とは……まもっちゃん、何かあった?」


 素振りをしながら守に対して砕けた口調で話すのは、1年生の宝生ほうしょうひかる。守とは小中と同じリトル、シニアでプレーし、1年生ながら今日の試合の6番レフトを任されている。


「分かるか?」


「うん、マグレじゃないことくらいは。まもっちゃんって基本ど真ん中以外打たないくらいの超消極打法だったのに、急にあんなにボールに食らいつくようになって……なんかデカい意識の変化があったんでしょ?」


「おう。なにがなんでも……レギュラー取りたくなったんだ」


「……そりゃよかった。結ねえも喜びますよ。……まもっちゃんのこと、ずっとレギュラーにしたがってましたから」


「ああ……随分、待たせちまったな……!」


「……本当っすよ。まもっちゃんはやれば出来るってみんな知ってたのに、いつまで経ってもやろうとしやがらないから……こっちはイライラさせられっぱなしで……」


「ハイハイ分かった分かった。後輩から説教は受けたくねぇよ」


「……なら、これからはちゃんと打ちましょうや」


「……おうよ!」


「テメェら! もう時間だぞ! 整列しろ!」


 主将の船曳に呼ばれ、朱護学園ナインは三塁ベンチの前に1列に並ぶ。目線の先にいる対戦相手、三杉学舎ナインを強く睨み付け、闘志を少しずつ燃え上がらせながら……“その時”を待つ。


「……………………整列!」


「行くぞ!!!」


「「「ウオォッ!!!」」」


 9月7日、13時ちょうど。少年達の野太い声とともに、朱護学園高校vs三杉学舎大付属高校の練習試合の火蓋が切って落とされた。

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