第7話 んなアホな

先攻 朱護学園高校スターティングメンバー

1番センター   小久保

2番セカンド   沖田

3番ライト    柳生

4番ファースト  門倉

5番サード    船曳

6番レフト    宝生

7番ピッチャー  鈴本

8番キャッチャー 清水

9番ショート   森内




「プレイ!」


 球審のよく響くかけ声とともに、朱護学園のリードオフマン小久保が右打席に立つ。

 普段は何も考えていなさそうなボーッとした顔をしている小久保も、1度打席に立てば殺意剥き出しの眼光を相手投手へと向けるのだ。


「さっコーイ!」


 投球練習を終え、野手陣との声かけも済ませたピッチャー中谷が打席の方に振り向くのと同時に、小久保は宣戦布告と言わんばかりの声をあげる。

 それを聞いた中谷は、少し帽子のツバを上げてから……


「おう」


 と、小さくつぶやいた。


(……威圧感あるねぇ。流石は身長185cm……って、多分それ関係ないか)


 中谷は時間をかけて初球のサインを決めると、古き良きワインドアップのフォームでその体をさらに大きく見せてくる。


 そこから足を大きくあげ、強く踏み出す豪快なオーバースローから、中谷は……チェンジアップを投じた。


(んなっ……初球チェンジかよ! いかにもストレート投げそうな雰囲気出しといて!)


 ブレーキの効いたチェンジアップは、真ん中に近い打ち頃のコースに投じられる。タイミングさえ合っていれば絶好のホームランボールなのだが、ストレートのタイミングでバットを振っていた中谷は完全に泳がされ、打球はサード方向へのボテボテの内野ゴロとなる。


(畜生、まんまとやられた! ……でも、俺の足なら間に合う!)


 ボテボテすぎるゴロは、サードが前進して取るにも、キャッチャーが取りに行くにも遠い絶妙なコースに転がる。この情けないボテボテの当たりならば、チーム1の俊足を誇る小久保の足で容易くセーフに出来るだろうと、朱護学園ナインは誰もがそう思っていたが……


「俺がとぉる!!!」


 前進するサードの前に、ピッチャー中谷が割って入ってくる。中谷は素手で転がるボールを掴むと、低い体勢から素早く投げられる横手投げのフォームで一塁へと矢のような送球を投げる。


「……アウト!」


「……んなアホな!?」


 間違いなくセーフになると思っていたものをアウトにされ、思わず小久保の口からはエセ関西弁が飛び出す。

 一方、試合開始早々のスーパープレーでチームの士気を上げることに成功した中谷は、ベンチへと帰る小久保に向けて得意気なドヤ顔を見せつけるのだった。


「……今のは、ショートも兼任している中谷ならではのフィールディングだろうな。弱い打球を素手で取るベアハンドキャッチも上手いし、取ってから投げるまでの時間を少しでも短くするために上からじゃなく横から放る判断力……そして、横からでも簡単にストライク送球を投げた正確性。どれもショートをやっていたからこそ身についた技術だ」


「……守、守備の話になると饒舌になるよね……」


「なんだかんだ言っても、やっぱ守るのが好きなんだよ、まもっちゃんは」


 自らの守備でリズムを作った中谷は、この後2番、3番も打ち取って三者凡退で初回を終えた。

 そして1回の裏、朱護学園先発のマウンドには満を持してエース、鈴本天明が登る。


「……えーがーいたゆーめと、こーこーにあーるいま♪︎」


「……また懐かしい曲を……急にどうしたんです?」


 鈴本の球を受けるのは1年生キャッチャーの清水しみず勝喜かつき。京都から神奈川まで野球留学に来ている、かつての中学ナンバー1捕手だ。


「昨日、カナとカラオケに行って歌った。やっぱメジャーは俺ら野球小僧のバイブルだな。歌うとテンション上がるわ」


「そうですか。じゃあ、今日は初回から気持ちよく投げれそうですね」


「そうだなあ……でも、ちょっと遊んじゃうかもしれん」


「……なんで?」


 先輩相手にも遠慮のない清水は、ふざけたそうに笑う鈴本を容赦なく睨み付ける。

 しかし鈴本は清水の睨みなど一切意に介さず、一塁側のベンチに座る男へと目線を向けるのだった。


「……初回から、中谷と勝負したくてね」

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