第4話 オータム・サバイバル
早朝、鎌倉市内にあるとある公園にて、1人の野球少年が一心不乱にバットを振っていた。
「ハァッ……ハァッ……!」
その少年の姿を、陰ながら見守る少女が1人。彼女は少年の顔から流れ落ちる大粒の汗を見て、満足そうな顔を見せていた。
「……頑張れ、守。……甲子園に行って、私をあなたの恋人にしてね」
「……絶対打つ……結と付き合う、ために!」
9月に入り、学校も再開して2学期が始まる。野球部の面々も男臭い野球漬けの日常を終え、学校で女子の太ももを追いかける日々を再開させるのであった。
「……柳生隊長、あの女子のスカートの短さ、けしからんと思いませぬか」
「まったくもってけしからんな、門倉隊員。仕方ない、階段の下から中身を覗いてやらねばなるまい」
「やめんか、それで野球部が訴えられたらどうするつもりよ」
「いでぇ! 何しやがる、沢登! これでケガしたら訴えてやる!」
「はいはい。これでケガするほどヤワな体じゃないでしょ」
野球部のメンツは筋金入りの悪ガキ揃いである。高校野球の強豪のレギュラーを取るような男はどいつもこいつも筋金入りの負けず嫌いかつ、タチの悪い自信家ばかりだ。そうでなければ勝負の世界では生き残れないのだが、普通の高校生として日常生活を送るには気が強すぎる。自制出来るタイプの人間ならいいのだが、そうでないお調子者は結のような常識人が常に舵取りをして制御しなければならない。
「まったく、あのバカどもは……アイツらとエロガッパ三人衆として同じレベルに扱われるのは極めて遺憾である」
「船曳は脳味噌に女の子詰まってると見せかけて勉強出来るからねー。……あ、船曳、数学の宿題見せてよ。やるの忘れたから写したいんだ」
「小久保……お前はもうちょい真面目に勉強しなきゃヤベーぞ。あの門倉、柳生コンビ以下の点数は流石にマズい」
「うーん……ま、なんとかなるっしょ」
「今の時代そうはならねーよ。赤点取ったら部活に参加出来ねぇんだぞ?」
野球部3年の学力ランキングは結>鈴本≧船曳≧守>>>門倉、柳生>小久保である。最近の風潮に
「……むっ、これは……俺の嫌いな、イチャイチャの気配……」
それまで冷静にノートに向かっていた船曳が、突然目をカッと見開いて教室中を見渡す。
やがて船曳は自分の憎むべき存在をロックオンし、これでもかというほどの呪怨をその男へと送りつける。
「ねえねえテンちゃん。このお弁当可愛いでしょ?」
「かーわーいーいーっ! カナが作ったの?」
「うんっ。テンちゃんに食べてほしくて! これで今日の練習頑張ってね!」
「うん! 頑張るー!」
「……す、ず、も、とぉ……妬ましいぃ……」
「……とりあえず今の自分の顔見よっか。立派なエロガッパの一員だからさ」
そんなエロガッパ船曳を冷めた目で見てから、結は守へと目線を移す。先日の話があって以来結は守のことを今まで以上に観察するようになっていたが、どうやら今日も新たな発見をしたようだ。
(……よく見ると守のヤツ、チラチラ鈴本君達を見ているな……それもバレないように、一瞬だけチラリと。……興味ない感じを装いつつも興味を隠しきれない。なるほど、確かにあれはムッツリだ)
「……そういやーよ、沢登。最近の練習で森内のヤツ、バッティングにもやる気出し始めた気がするんだわ」
守を観察する結の背中から、柳生と門倉のコンビが話しかけてくる。
チームのクリーンナップを打ち、打撃への理解も深い2人は真っ先に打撃練習における守の変化に気づいていたのだ。
「……あの後、森内となにしたんだい?」
「教えてクレイトン・カーショー」
「……エサをあげただけだよ。守がどうしても打ちたくなるようなエサを、ね……」
夏の甲子園が終了して1ヶ月。早くも9月の下旬から、春の甲子園に向けた戦いはスタートする。
秋季神奈川県大会。ここで3位以上の成績を残せば関東大会に進出することが出来、関東大会で好成績を残すことが出来れば……念願の春の甲子園へと
「もう秋の大会がスタートするまで時間がない。これから毎週土日に練習試合を組み、実戦の中で秋の大会に向けての調整とメンバー選抜を行っていく」
「「「ハイッ!!!」」」
「秋のメンバー登録までに出来る試合は詰め込んで5、6試合ってところか。基本的に土曜の試合は当落線上のメンバー中心、日曜の試合は主力メンバー中心に起用していきたいと思う」
その中でも、一番の注目を集めるのは……
「……最後に、デカいのを持ってきましたね……」
「夏の甲子園優勝校、西東京代表の
「……江大以外も、関東を代表する名門揃いだ。さあ、秋のサバイバルを開始するぞ!」
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