ヒーローになるためには3
彼方は少し照れくさそうに自己紹介を始めた。
「僕の名前は青井彼方です。ヒーローになることが夢です」
ここにいる人達は、みんなヒーロー志望である。僕は何を当たり前のことを言ってしまったのだろうと後悔する。
「彼方君ね。うん、覚えた。でも…」
古日根は、不思議なものでも見るように彼方をまじまじと見る。
そんな古日根の表情に彼方は怪訝な顔をする。
「どうかした?」
「えっとね。君は何て言うか、トップヒーローを目指していないのかな?」
彼方は、小さい頃からヒーローになることが夢だった。そして僕が憧れたヒーローはトップヒーローではない。
彼方は、質問をどう返せばいいのか困って無言になる。
古日根は彼方の目を真っ直ぐ見つめ、質問を変えて問う。
「ヒーローになれれば、それでいいの?」
古日根の瞳は、とても純粋で澄んでいて吸い込まれそうになる。
とてもじゃないが、冗談で流せる雰囲気ではない。彼方は古日根の目を真っ直ぐ受け止め、質問に答える。
「僕はたくさんの人を守れれば、それでいいんです」
古日根はニッコリと笑うと手を差し出す。
「だったら、尚更トップヒーローを目指した方がいいよ」
彼方は差し出された手を握らず、疑問を返す。
「どうしてですか?」
彼方の疑問に古日根は少し困った顔をする。
「わからない?私はたくさんの人を守れるのが、トップヒーローだと思うよ」
その時の古日根のはにかんだ表情が印象的だった。
古日根は寂しそうに差し出した手を引っ込めると、この場を後にすることにした。
「それじゃあ先に行ってるね。お互い研修生になれるように頑張ろう」
「そうですね…」
彼方は自分が何を目指せばいいのか困惑した。だから適当な返事をすることしかできなかった。
「もしかしてと、ちょっとだけ期待したんだけどな…」
その古日根の言葉は風でかき消された。彼女は会場の方へ歩みを進める。
僕はヒーローになった後の目標を考えていなかった。たくさんの人を守れれば、それでいいと思っていた。
僕の考えるヒーロー像は、ずれているのかな?ヒーローってなんなんだろう?
ってこんなことを考えている時間はない。僕も会場に向かわないと。
人混みをかき分けて歩くこと数分。ようやく建物の入り口に到達した。
中に入ると歴代の伝説的ヒーローの写真が額縁で飾られている。
僕の写真もいつか飾られるのではっと妄想をしながら通りすぎた。
会場に近づくほど胸がドキドキして、気持ちが落ち着かなくなった。
こういう時は、人って文字を飲む込むといいはず。
って全然効果がないし、手汗が酷い。
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