第5話…台風の後の快晴はなんだか淋しい

ビジネスホテルのベッドに横たわり、日奈子はここ数日を思い返していた

あれ程完璧に用意して挑んだ自殺は失敗した、未遂ですらなく失敗した…

それと引き換えに知り合ったケンタという名前の男は最上級のバカだった

「何でアイツあんなに幸せそうなんだろう…」

知り合ったばかりの日奈子が『友達以上にはならない』と壁を作れば『友達になってくれるの?』と嬉しそうに笑い、実家の近くに行けばいちいち『日奈子の思い出の場所』と喜び、うんざりする渋滞に飲み込まれても『日奈子と一緒に居られる時間が伸びる』と喜ぶ…

「来年自殺出来るのかな…」

なんだかふっと笑えた

「静かだな…」

それはきっと、圧倒的身近な存在で抗う術も無い程に強力な死神…曰く『絶望』

「死ねなかった…あんなに私望んだのに…死ねなかった…」

慟哭が日奈子を包んだ

死ねなかった現実が、生きる絶望が日奈子の体を心を鷲掴みにして黒い世界に引き摺り込もうとしていた

『ライン!』

スマホの画面に写った着信、クリックすれば

『無事にレンタカー返却完了!』

とさっきまで乗ってた車の前でピースしてるケンタの写真

「ばーか…」

日奈子は久し振りに泣いた…

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