第66話 迷い

 午後、仕事を終えた修介は報告の為にギルドに戻ってきていた。

 朝早くからの仕事だったということもあるが、この世界では前の世界と違って仕事の拘束時間が短いのが特徴だった。

 力仕事で疲れきった体を引きずるように入口を潜ると、ギルドの様子がいつもと違うことに気付いた。

 この時間帯にしては珍しく掲示板の前に人だかりができていたのだ。

 その喧騒を横目で眺めつつ受付で依頼完了の報告を済ませた修介は、掲示板のところまで移動すると、人だかりの後ろから背を伸ばして掲示板を覗き込んだ。

 掲示板には明らかに他の依頼書よりも大きな紙が貼り出されていた。

 最近すっかり文字の勉強をおろそかにしていた修介には詳細は把握できなかったが、どうやら内容は魔獣討伐の依頼のようだった。

 修介はアレサの柄を握って依頼書をしばらく見つめると、そのままギルドの外に出て人気のない路地へと移動した。

 周囲に人がいないことを確認してアレサに声を掛ける。


「アレサ、あの依頼書にはなんて書いてあったんだ?」


『マスター、ちゃんと文字の勉強をしていたらわかるはずですが……』


「わかってるって。明日から本気だすから! それよりも内容は?」


『魔獣の討伐依頼のようですね。正確には魔獣討伐軍への参加要請で、依頼主は領主となっていました』


「魔獣……」


『討伐対象の魔獣はヴァルラダンと書かれていました』


 修介はそれを聞いてはっとした。


「なるほどそういうことか……」


 わざわざセオドニーがギルドに行くよう言っていたのは、これを修介に見せたかったからだ。依頼主が領主ということだから間違いないだろう。


「ヴァルラダンという魔獣は訓練場の座学でも習ってないな……。どんな魔獣なのかアレサは知ってるか?」


『当然知っていますが、詳細に関しては回答できかねます』


「ようするに既知の魔獣ではないってことか……」


 アレサは常識的な知識に関する質問にしか答えてはくれない。そのことに修介はさすがに慣れてきていた。


 修介はとりあえずアレサに依頼の詳細について細かく聞いた。

 それによると、ヴァルラダンは修介が黒い影と呼んでいる化け物の正体だった。

 ヴァルラダン討伐軍は騎士団と冒険者の混合軍となるらしく、冒険者は騎士団の指揮下に入ることになり、全軍の指揮は領主自らが執るという。

 出発は一〇日後で、四日前までは冒険者の参加を受け付けているらしい。ただ、誰でも参加できるわけでなく、それなりに実績のある冒険者でなければ参加は認められないらしく、その判断はギルド側で行うとのことだった。

 また、出発前の数日間は騎士団との合同演習に参加することが条件となっていた。

 報酬額は通常の大型魔獣討伐の相場の倍以上と破格の条件となっているが、その反面前金等の補助は一切なく、報酬も討伐が完了しない限り支払われないという厳しい条件も付随していた。


「ようするに依頼を受けるだけ受けて直前でトンズラするのを防ごうってことだよな」


『おそらくそうでしょう』


 それだけヴァルラダンという魔獣がやばい相手だということだった。いくら報酬が高いとはいえ、この条件で依頼を受ける冒険者がはたしてどれだけいるのだろうか。


『マスター。まさかこの依頼を受けようなどと考えてはいませんよね?』


 アレサの問いかけに修介は苦笑して答えた。


「まさか! そんな度胸は俺にはないよ。それに今の俺の実力では足手まといになるだけだろう」


『そうですか』


 その答えに満足したのか、あっさりとアレサは引き下がった。

 修介は依頼についてハンナあたりからもう少し詳しい話を聞きたかったが、今はそれより優先すべきことが他にあった。


「ところでアレサ」


『なんでしょう?』


「ロイの実家ってどこにあるか知ってる?」


『……』


 アレサのその沈黙が何を物語っているのかは不明だが、おそらく呆れているのだろうと修介は推測した。

 結局、アレサは文句を言いながらもロイの実家の場所を教えてくれた。ロイの実家は街の北東にある市場から少し外れた郊外にあるらしい。家業が鍛冶屋だというのは知っていたので近くまで行けば知っている人もいるだろう。

 修介は通り道の果物屋で適当にお見舞いの品を購入して、ロイの実家へと向かった。念のためにアレサに確認したが、この世界でもお見舞いの品は果物か花というのが定番とのことだった。

 気が急いているのか、歩く速度がだいぶ速いことを自覚する。

 地面に映る影がだいぶ長い。そろそろ日が暮れる時刻だった。こんな時刻にいきなり訪ねて行って大丈夫なのかと不安に思ったが、今更そんなことを気にしても仕方ないと開き直ることにした。




 通りすがりの人に尋ねてたどり着いたロイの実家は、工房と住居が一体となった大きな平屋建ての家だった。工房の煙突からはまだ煙が出ているので仕事中だろうと考え、修介は住居の方の扉へと向かった。

 インターホンなんて気の利いた物は当然ないので、修介は遠慮がちに木の扉を叩くと「ごめんくださーい」と声を上げた。

 扉の向こうから「はーい」という女性の声で返事があり、しばらくすると扉が開いて中から若い女性が顔を出した。年齢は修介より少し上に見える。その顔はどことなくロイに似ており、家族だとするならおそらく姉だろうと修介は推測した。

 女性は修介の顔を見て少し警戒しながら「どちらさまですか?」と尋ねてくる。


「えっと、俺――僕はロイ君の友達で、修介という者なんですが、ロイ君が怪我をしたと聞いたものですから、その、お見舞いに……」


 ロイを君付けすることにものすごい抵抗感があったが、さすがに家族の前で呼び捨てにするのは憚られた。もっとも、言語ツールで翻訳された場合にそのニュアンスの違いがどう表現されるのかはわからないのだが。

 修介が名乗ると、女性はあっさりと警戒を解いた。


「まあ、あなたがロイの言っていた噂のシュウスケ君ね。本当にあの子が言ってた通りの黒髪なのね!」


 特徴的な見た目もこういう時には役に立つのだな、と修介は思った。ロイが自分のことをどう家族に伝えていたのかは気にはなったが、とりあえず警戒は解かれたようなので、ほっとしながら手に持った果物を差し出した。

 女性は礼を言ってそれを受け取ると、修介に中に入るよう促した。


「私はロイの姉でローレアよ。ロイがいつもお世話になってるようで感謝しているわ」


「い、いえ、こちらこそロイ……君にはお世話になってます」


「ロイでいいわよ」


 ローレアは口元に手を当てて笑いながらそう言った。


「あの、それでロイは……?」


 修介がそう尋ねると、それまで笑顔だったローレアの表情が曇る。


「……怪我は神殿の神官様が治療してくださったから、命に別状はないわ。でも、戻ってきてからずっとふさぎ込んでて、話しかけても一切口を利いてくれないの。何かよっぽどの目に遭ったんでしょう。それに……」


 そこでローレアは一旦口を噤んだ。


「それに?」


「いえ、なんでもないわ」


 ローレアは首を横に振った。


「とりあえず部屋に案内するから顔を見せてあげてくれる?」


「わかりました」


 修介はローレアに続いて家の中を遠慮がちに歩く。工房と一体になっているからか、普通の家より随分と天井が高い。

 廊下の一番奥にある部屋の前でローレアは足を止め、扉をノックした。


「ロイ、シュウスケ君がお見舞いに来てくれたわよ」


 だが、扉の向こうから返事はなかった。


「入るわよ」


 言うと同時にローレアは扉を開けて中に入った。その遠慮のなさに姉弟なんだなと感心しつつ修介も後に続く。

 部屋の窓は閉じられ、カーテンも閉め切った部屋は暗く、少し埃っぽかった。

 奥に置かれたベッドの上に、上半身を起こした人影があったが、室内が暗いせいでよく見えなかった。


「また窓を閉め切ってるのね。少しは空気を入れ替えないと」


 そう言いながらローレアはカーテンと窓を開けた。

 差し込んだ西日がベッドの上の人影を照らした。それを見て修介はぎょっとした。

 ベッドの上にいるのは間違いなくロイ本人だった。だが、訓練場で一緒にいた頃の彼の面影はほとんどなくなっていた。快活でいつも人懐っこい笑顔を浮かべている印象だったロイの顔は、まるで感情が抜け落ちてしまったかのように表情がなかった。姉が窓を開けたことにさえ関心がないようで、その視線は何もない虚空の一点を見つめ続けている。

 ロイのあまりの変貌ぶりに修介は自分の目を疑った。

 一体何があったら人はここまで変わってしまうのだろうか。


「話しかけてあげて」


 ローレアはそっと修介の肩に手を置くと小声でそう言った。

 修介は黙って頷いたが、正直なんて声を掛けていいかわからなかった。


「よぉ……」


 なんとかそう声を掛けたが、その後に続く言葉が何も思い浮かばない。四三年の人生経験があってもこんな時に気の利いた言葉ひとつ出てこない自分に腹が立った。

 しばらく沈黙が続いた。

 このまま黙ってては来た意味がない。自棄になった修介は自分のことを勝手に話すことにした。


「聞いてくれよ、俺こないだ初めてゴブリン討伐の依頼を受けたんだよ。そこで散々な目にあってさぁ――」


 修介はベッドの傍にあった椅子に腰かけると、冒険の旅で起こった出来事について語り始めた。もちろんアレサのことや自分の体質の事は伏せたが、それ以外のことはありのままに全部話した。仲間のこと、ゴブリンとの戦いの前にびびったこと、死にかけたこと、そして初めて人を殺したことも。

 話をしている間、ロイは修介の方を一度も見ることなく、何もない一点をずっと見つめ続けていた。それでも話は聞いてくれていると信じて修介は話し続けた。途中から色々な感情があふれ出し、頭の中がごちゃごちゃになって自分でも何を言っているのかよくわからなくなっていた。


 気が付くと、なぜか目には涙が滲んでいた。

 自分でも理由はわからなかった。冒険者になってからあまりに多くの出来事があり過ぎて、ほんの一か月前にレナードとロイの三人で馬鹿をやっていた頃を思い出して少し感傷的になってしまったのかもしれない。

 一通り話を終えると、修介は鼻をすすりながら「わりぃ、喋りすぎたな」と言って頬を掻いた。自分語りが過ぎたと、急に恥ずかしくなった。

 気を利かせたのか、いつの間にかローレアは部屋からいなくなっていた。


 気まずい沈黙が部屋を支配する。

 出直したほうがいいか、そう考えて修介が席を立とうとした時、ベッドの上でロイが動く気配がした。

 ロイの手が弱々しく修介の手首を掴んでいた。

 その手に導かれるように修介はゆっくりと椅子に腰を落とす。

 修介を見るロイの目には、ほんのわずかだが光が戻っており、何かを伝えようという意思が感じられた。

 修介は黙ってロイの言葉を待った。


「……ストルアン殿が死んだんだ」


 その一言に、修介は脳天をハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。

 ようやく開かれたロイの口から出た言葉は、修介が今もっとも聞きたくないと思っていた内容そのものであった。

 噂に聞いていた騎士団の被害状況から、その可能性があることは十分に予測出来ていた。たが、あらためて事実として聞かされると、事前の覚悟など何の役にも立たないのだと思い知らされる。


「……そうか」


 修介は絞り出すようにそう答えた。胸に心臓を鷲掴みにされたような痛みが走る。

 ストルアンとは郊外演習で一緒になっただけだったが、尊敬できる騎士だった。彼が修介に与えた影響は決して小さくない。何よりも彼の帰りを待っている子供達のことを知っているだけに、やりきれない思いを抱く。

 辛いのは当事者であるロイだ。修介はそう自分に言い聞かせる。


「ストルアン殿のことは残念に思う……。でも、それでもお前は生きて帰ってきたんだから、俺はそれが嬉しいよ」


 修介は労わるようにそう言ったが、ロイは辛そうに目を閉じて首を横に振った。


「そうじゃないんだ……」


「えっ?」


「ストルアン殿は俺のせいで死んだんだ……」


「は? お、お前何を言ってるんだよ? そんなこと――」


 修介はそこまで言ったところでロイの苦痛に歪んだ顔を見て口を閉ざした。

 それからロイはぽつりぽつりと何があったのかを話し始めた。


 ロイは訓練兵でありながら、兵器類の扱いに長けているということで、中央部隊の後方に配置された固定式大型弩砲バリスタの射手として調査部隊に参加した。

 彼は後方から戦場で何が起こったのかを一部始終見ていた。それはつまり、騎士団がヴァルラダンという恐ろしい魔獣に蹂躙される様を見ていたということだった。

 取り囲んだ騎士達の攻撃をものともせず、次々と人間を吹き飛ばしていく化け物の姿にロイは恐怖した。

 だが、恐怖に駆られながらもロイが必死に放った固定式大型弩砲バリスタの矢は見事に化け物に命中し、その一撃をきっかけに騎士団は攻勢に転じた。

 騎士団は奮戦し、化け物に傷を負わせたが、それ以上に受けた被害は甚大だった。

 そしてついに退却命令が出された。「動ける者は全力で逃げろ」という単純明快な命令だった。

 ロイの周囲にいた者達は命令と同時に一目散に逃げだした。彼らは元々兵士ではなく志願した一般人や技師である。そうなるのは仕方がなかった。

 だが、自分は訓練兵とはいえ騎士だ、とロイは自分に言い聞かせた。

 化け物に傷を負わせたこの兵器は、次の戦いで絶対に必要になると考えた。

 ロイは兵器をなんとしてでも持ち帰ろうと必死に動かし続けた。逃げる他の兵士達からは「そんなものほっといてさっさと逃げろ!」と言われたが、ロイはその言葉には従わなかった。



「……今にして思えば、ただ意地になっていただけなんだと思う。化け物の圧倒的な力を前にして、無力な自分にとって兵器はあの戦場で唯一の希望だと勝手に思い込んでいたんだ……」


 ロイは消えそうな声でそう言った。

 修介は何も言えなかった。だが、修介からしてみれば、その行動の是非はともかく、逃げずに最後まで兵器をなんとかしようとしたロイの行動は勇敢に思えた。


「……だけど、その無謀な行動のせいで俺は逃げ遅れて、あの化け物に狙われた。兵器ごと吹き飛ばされて俺は地面を転がった。止めを刺そうと近づいてくる化け物を見て、俺はもうダメだって思ったんだ……」


 そう言うロイの手はその時の恐怖を思い出したのか震えていた。


「そうしたらさ、横からストルアン殿が飛び込んできたんだよ。さっさと逃げろって叫んで、化け物を引き付けるようにして走って行ったんだよ……。俺は他の騎士に抱えられてなんとか無事に逃げることができた……。でも、ストルアン殿は……」


 ロイは突然拳を自分の膝に叩きつけると修介に向かって叫んだ。


「俺なんか見捨てていれば、ストルアン殿は死なずに済んだんだ! 俺が馬鹿なことをしたせいで、そのせいで……俺の、俺のせいなんだッ!」


 ロイは堰を切ったかのように嗚咽を漏らしながら突っ伏した。


「違うっ! お前のせいじゃない! お前は悪くない! 悪いのは化け物だ! お前じゃない!」


 修介はロイの肩を掴んでそう叫んでいた。


「誰のせいとかそういうんじゃないんだよ。お前もストルアン殿も必死に戦った結果なんだから……。お前を助けるという判断をしたのはストルアン殿だ。騎士として最後まで立派に戦ったってことじゃないか。それをお前が自分のせいにしたら駄目なんだよ……」


 修介の言葉にロイは顔を上げる。


「でも、俺は見ちまったんだよ!」


「えっ?」


「あの化け物に食い殺されるストルアン殿を! 本当だったらああなるのは俺のはずだったんだ。ストルアン殿は俺の身代わりになったんだ! なのに……なのに俺はそれを見て、俺じゃなくて良かったってほっとしちまったんだよ……俺は……俺は最低野郎なんだ……」


 ロイの目から急速に光が失われていく。

 修介はまずいと思ったが、咄嗟に掛ける言葉が思い浮かばない。

 目の前で尊敬する人が殺されるのを見るのはどういう気持ちなのだろうか。

 それを見てほっとしてしまう自分を知るのはどんな気分なのだろうか。

 四三年生きてきた修介にだってそんな経験はなかった。経験したことのない者にそれがわかるはずもない。

 修介の心に唐突に怒りが湧く。

 なぜロイがこんな目に合わなければならないのか。それほどの恐ろしい目にあったのに、さらに罪の意識に苛まれていることが理不尽に思えた。

 これ以上こいつが苦しむ必要はないはずだ――修介はロイを見つめながら必死に言葉を紡いだ。


「……そんなん、俺がお前と同じ状況に陥ったとしても、そう思ったよ。間違いなく俺もほっとしたと思う。だから大丈夫……お前だけじゃない。俺はお前を責めない。他の誰が何と言おうとも俺はお前を許すよ……」


 修介はロイの背に優しく手を置いた。

 ロイは俯いたまま、何も言わなくなった。




 修介は「また来るよ」と言ってロイの部屋から出た。

 廊下に出ると、ローレアが立っていた。

 修介が頭を下げると、ローレアは寂しそうに微笑んで首を横に振った。そして何も言わずに玄関まで見送ってくれた。

 外はすっかり暗くなっていた。

 修介は振り返ると気まずそうに口を開いた。


「なんか、余計なことをしたみたいで、すいません……」


「ううん、帰ってきてからずっと口を閉ざしたままだったから、溜まっていた思いを吐き出すことができて良かったと思ってるわ……。今日は来てくれてありがとう」


 ローレアはそう言って修介の肩に優しく手を置いた。


「早くあいつの怪我が良くなるよう祈ってます。きっと体が治れば心もつられて元気になるでしょうから……」


 修介がそう言うと、ローレアは急に表情を曇らせた。


「……どうかしましたか?」


 ローレアはしばしの逡巡の後に口を開いた。


「……実は治療していただいた神官様がおっしゃっていたの。ロイの右足はとても酷い状態で、癒しの術では完全には治せなかったって。また歩けるようにはなるだろうけど、おそらく剣を振って戦うことはもう無理だろうって……」


「そんな……」


 修介は言葉を失った。それはつまりロイの騎士になるという夢が潰えたということだった。


「そ、そのことをロイは?」


「私達からは言ってないけど、たぶんあの子自身は気付いてると思うわ……」


「……っ!」


 その残酷な現実を修介はとても認めることができなかった。

 憧れていた騎士を目の前で殺され、その仇を討とうにも、もう自分では戦うことさえできないのだ。


「そんなのってありかよ……」


 修介は拳を固く握りしめる。

 何が、俺がお前と同じ状況に陥ったとしても、だ――修介は自分の浅はかさに反吐が出そうだった。ロイの無念を思うと、自分が先ほど言った言葉の数々がいかに薄っぺらいものだったかを痛感する。

 ロイもストルアンも命懸けで化け物と戦ったというのに、自分はその化け物と戦わずに済んだことに安堵していたのだ。どっちが最低野郎なのか、比べるまでもなかった。


(俺は……俺は本当にこのままでいいのか……?)


 修介はそんな思いに囚われ、しばらくその場を動くことができなかった。

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