第5話 五大変態のラスボス
五大変態の残り一人。
教師人の要注意人物は、隠村である。
しかし俺の意見は違う。
本当に危険なのは、今までの四人じゃない。
害の無さそうな、外面が良いのが一番危険なのだ。
「鵜鷺先生。仕事の方はどうですか? この学園には慣れましたか?」
「ああ。今回も見回りか? いつも大変だな」
「いえ。少しの時間見回るだけで、この学園の風紀が良くなるなら、全く大変だと思いません」
放課後、今日も今日とて怪我人よりも変態の人数の方が多かったと日誌にまとめていた。
もう少しで書き終わる。
そんな時に丁寧なノックと共に、この学園一の美形が入ってきた。
この学園の生徒は美形が多いらしいのだが、そういったことに興味が無く、みんな似たり寄ったりに見えていた。
しかしそんな俺でも、初めて見た際、すぐにその容姿が整っていると思った。
むしろ整いすぎているぐらいだ。
天使がそのまま成長して王子様になったと評される金髪碧眼は、ハーフゆえらしい。
微笑みを向けられれば天に召されたかのような気分になるとは、誰の言葉だったか。
容姿も良ければ、成績も常にトップ。
容姿端麗、文武両道、品行方正。
全てにおいてパーフェクトなこの生徒は、
「さすが生徒会長だな」
青薔薇学園の現生徒会長である。
名前は
こういったタイプは外面が良くても中身が最悪なことがあるが、俺の知る限りそんな場面を見たことが無い。
心の底からの善人。
「僕なんてまだまだです。前生徒会長から教わったことを、未だに上手く出来ていません」
これが謙遜しているのなら嫌味だが、本気で言っているのだから凄い。
天が二物どころか、全てを与えたかのような人間だった。
しかし完璧すぎても良くないと思ったのか、華岳に対して一つの欠点を与えた。
そしてそれは、全てを台無しにするぐらいのレベルのものである。
「今日は穿いているのか?」
答えはなんとなく察していたが、一応確認のために尋ねる。
俺の質問に瞬きをした華岳は、一瞬下を見て、そして俺の方を見た。
「いいえ、穿いてません」
その返事の勢いが良いのと、清々しい笑顔に、俺はそうかと流してしまいそうになった。
露出狂、と分類していいのか微妙なところだが、華岳はそういったタイプの変態だった。
基本的にパンツは穿いていない。
本人からしてみると洋服の全てがいらないそうだけど、今のところパンツだけにとどまっている。
一番は姫に裸を見せたいらしい。
しかし他の生徒に見られるのも、それはそれで快感になるそうだ。
見回りも、先ほど言っていた理由でやっているのもあるだろうが、八割方の目的はパンツを穿いていない状態で人前で歩くことだろう。
完全に変態だが、まだ全てを露出しているわけではないから様子見している。
教師の中には、まさか華岳がそんなことをしているとは信じられない人が何人かいる。
確かに外面が良すぎて、俺も本人の口から穿いていないと聞かなければ、嘘をつくなと笑い飛ばしていたかもしれない。
それぐらい、華岳は理性的だ。
しかしその理性が、いつ崩れるかだなんて誰にも分からない。
今出していないのは、華岳が現状に満足しているからだ。
満足出来なくなれば、その時は何のためらいもなく全裸で出てくるだろう。
「鵜鷺先生は息苦しくないんですか? 息苦しいのは良くないですよ」
「それは俺にパンツを脱げと言ってるのか」
「はは」
爽やかに笑って誤魔化そうとしても、騙されると思ったら大間違いだ。
息苦しいわけがないし、パンツはモラルなのだから、絶対に脱ぐことは無い。
変態の考えることは、俺には到底理解が出来なかった。
「なあ、華岳」
「はい、なんでしょうか」
「どうして俺に話したんだ?」
実は華岳の露出狂という性癖が知られたのは、最近のことである。
そのきっかけというか、向こうから申告してきたのだが、その相手が俺だったのだ。
赴任してきて一週間ぐらいのことだったから、俺は自分の耳がおかしくなったのではないかと思った。
しかし実際に見せられれば、信じるしかない。
あの時の光景を思い出して、俺は思わず身震いをした。
あれはトラウマになりかけるレベルだ。
もう絶対に見たくない。美形の下半身なんて。
「俺に話さなければ、誰にもバレずに楽しめたんじゃないか?」
華岳が俺に話し、俺がそれを報告した。
普通だったら一職員の訴えが届くわけが無いが、俺の話は他よりも届きやすい。
そのおかげで到底信じてもらえないような話でも、一応確認をしてもらえた。
そして確認が行われた結果、華岳が穿いてないことが認知された。
だから俺に言わなければ、今まで誰にもバレてこなかったのだ。全裸にならない限りは、バレずに済んだだろう。
それなのに、何故わざわざ俺に話したのか不思議に思っていた。
「俺にバラさなければ、完璧な生徒会長のままでいられただろ」
「僕は完璧ではありませんよ。皆さんそう言いますが、買い被りすぎです」
自己肯定感が低い華岳は、褒めても本気で受け取らない。
彼の言う完ぺきは一体どのレベルなのか、俺達常人には理解出来なかった。
「買い被りか。まだまだ高みを目指せるのは良いことだな。若いっていうのは財産だからな」
「鵜鷺先生もお若いでしょう」
「いや、もう俺はおっさんだよ。ま、それはどうでもいい。どうして教えたのかの答えはなんだ?」
どう考えても体力の衰えは感じているので、今はそういった現実を見たくない。
だからそれかけた話を、無理やり元に戻した。
俺が話をそらしたのを察し、華岳は苦笑した。
向こうの方が大人な対応をしていて、俺は少しいたたまれない気持ちになる。
「そうですね。変化が欲しかったのかもしれません」
「変化?」
「はい。この学園は良くも悪くも閉鎖空間ですから。新しい風が必要なんですよ。そして外から来た鵜鷺先生、あなたにこそその役目がふさわしいんです」
「俺に? そんな大役無理だな。俺は最低限の関わりがあればいいんだ。それこそ買い被りだろう」
「買い被りじゃないですよ。だからこそ僕は鵜鷺先生を選んだんです」
俺に何を期待しているのか分からないが、絶対に買い被りすぎだ。
学園に新しい風を吹かせられるとは思えないので、話し半分に聞いておくことにする。
「それに」
見回りの続きを再開するのか、華岳は部屋を出ようとして、そして俺の方を振り返った。
「穿いていないのを知ってもらった方が、ゾクゾクするでしょう? 知らないままじゃ、ただの僕の自己満足にすぎないですから」
言いたいことだけ言うと、そのまま去っていく。
俺はいなくなった扉を見ながら、頭を押さえた。
「あー、この学園は癖のある生徒しかいないのか」
やはり五大変態一のやばい奴だ。
しばらくは関わらないようにしようと、心に決めた。
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