第42話 説明できない不幸
千聖さん以外の全員が秘密を暴露しまくったところで、大富豪はお開きになった。
ももかが妙なキャラクターグッズを集めていたり、僕が同じ服を何着も持っていて靴下は一種類しか持ってないことに愛樹が若干引いていた。片方だけなくなったりしないから便利なのに。
あと、僕の好きな人はアニメキャラということで押し切った。
何か大事なものを犠牲にした気がするけど、仕方ない。
「何も起こらないね」
「そうね。そろそろお風呂の時間になってきたわ」
次のゲーム、とはならず、皆本題の方へ意識を向ける。作戦では、平衡思念と呼ばれる霊体が、悪いことをしてる僕らに何かしらのアクションをするはずだった。
しかし、現実には何も起こっていない。賽は投げられ、白羽の矢も立てられ、あとは機が熟すだけ……という状況のはずなのに。
「そろそろ眠くなってきたわね。パジャマ着てるし、このまま寝ちゃおうかしら」
「玲。今なら平衡思念のせいにしてタッチし放題だぞ」
ももかに寄りかかって目を閉じた愛樹を見て、千聖さんが耳打ちしてくる。いや、平衡思念って別にエッチな存在じゃないからね。
「仕方ない。幽霊部らしく、怪談話でもしようじゃないか」
千聖さんがそう言うと、愛樹がびくっと震える。
どうしたのかと思って見ると、今度は蝋人形みたいに固まっている。ひょっとして怖い話が苦手なのか、あの性格で。
みんなが愛樹に注目する中、千聖さんは淡々と準備を勧めていたらしく、懐中電灯で下から自分の顔を照らしつつ話し始めてた。
「実はだな……平衡思念に操られているのは私たちの方なんだ」
……なんか反応しづらいボケが出てきたぞ。
みんなも同じことを考えているのか、表情を固くして動かない。反応してはいけない二十四時でも始まったのか。
当の千聖さんはというと、眉根を寄せて悩ましそうな顔をしている。
ウケなかったのがショックなのだろうか。ブツブツと何かをつぶやいた後、首を左右に振っている。
やがて、みんなの注目が集まっていることに気づくと、手をパンと叩いてこう提案した。
「平衡思念を待つのは効率が悪いのかもしれない。こちらから精神世界へ行ってみるか」
「あっ! わ、わかった、あれね!」
愛樹は糸でも切れたかのように勢いよく立ち上がる。
そして、思い当たるところがあるのか、窓際の棚へ向かい、引き出しから何かを取り出した。
「さあ、頭の中の妖精を呼び出しましょう!」
「って待て待て待て!」
デジャヴ! ハンマーで頭叩いても怪我するだけだから! 全く、ユキと思考回路が一緒じゃないか。ひょっとして流行りなのか?
「わー! 愛樹ちゃんが霊にとりつかれてる!!」
「ちょっ、ももか首やめて! 息が、苦しい……」
ももかが愛樹の首をつかんで、前後に揺さぶる。
偶然首がしまって、偶然苦しそうだ。まあ、人を殴ろうとした罪だと思って苦しみ続けて欲しい。
愛樹の不幸を見て冷静さを取り戻した僕はふと、ユキが大人しいことに気づく。
どうしたのかと思ってユキの方を見てみる。
ユキは壁にもたれたまま目を閉じていた。
その光景は僕に違和感というざわめきをもたらした。
千聖さんの言葉を思い出す。
「説明できない不幸を霊のせいにした」という説だ。
ひょっとして、憑依霊というのも、平衡思念が生み出したものなのだろうか。
守護霊がこの世界をよくできない原因を、憑依霊に押し付けているのではないか。
僕はさらに思考を広げる。
最初にユキが言っていたニートも、平衡思念説で説明できるのではないか。
知識をアップデートしないマネジメント層は経済不況を引き起こし、勉強しない教師は学校教育を低迷させた。
その原因を若者に押し付けるために、ニートという言葉を作ったのだ。
霊界も同じなのかもしれない。
低迷した原因を押し付けるために、ニートの幽霊をつくって非難している。
しかし、僕の思考はそこまでだった。
敵がやってきたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます