第37話 廃部になります

「ちょっと! 一方的に廃部勧告だなんて、礼儀がなってないんじゃないの?」


 突然現われた生徒会長にいきなり廃部宣告を受け、愛樹は真っ先にソファから立ち上がり、異を唱えた。


 しかし、生徒会長は全く動じることなく、髪のほつれを直している。どうやら愛樹の大声にびくびくしてるのは僕だけのようだ。

 ももかは生徒会長の方を不安そうな目で見ているし、千聖さんは口元に手を当て、タバコを吸うような仕草をしている。


「この部は規則違反。部活動には存続条件がある。

 設立条件として顧問1人と生徒5人、努力目標として生徒の健全な精神の発展に努めること、この2点。

 この部は顧問1人、生徒40人が在籍しているため、一応設立条件は認可。けど、後者の条件は不認可。

 具体的に言うと、部員の半分以上が活動してないことと、活動実績がないことが問題。このままでは校内に不真面目な雰囲気が蔓延してしまい、生徒の精神の発達に悪影響。故に廃部にすべきだ、というのが職員会議での意見」


 ……終わった。長話がようやく終わった。

 説明の開始から終了までで1スクロールくらいはありそうだ。

 今の、実績を作れの一言で良くないか?


 ユキといい千聖さんといい、どうして僕の周りには話の長い奴ばかりなんだろう。おかげで、千聖さんが吸っているのはパイプで、廃部とかけていることを発見してしまった。

 まったく。話をもっと短くすれば、ページ数も少なくなって、地球環境もよくなるのに。


「なんだ、簡単じゃない。要は大会に出ればいいのね」


 愛樹が長話を要約してくれた。僕と同じ意見なんて珍しいな。

 いつもこんな風に意気投合できればいいんだけど。蹴られずに済むから。


「実は私、みんなで大会を目指すような熱血系に憧れてたのよ。ちょうどいいわね」

「そうだな。大会はいい機会だ。私も熱血系を操縦するのが大好きだし」


 え? 千聖さんは参加する気ないんですか?


「でも、話はもっと複雑」


 大会参加でまるっと解決するのかと思ったけど、生徒会長が再び話し始めた。

 頼む、今度は短めで終わってくれ。できれば140字以内で。


「今日の会議では、一年の間のイジメも議題。今回の廃部勧告は、それが発端」

「なんでよっ! イジメと私達の部活は関係ないでしょ」


 千聖さんが「そーだそーだ」と合いの手を入れる。そんな焚き付けるようなこと言って、逆効果じゃないだろうか。

 しかも僕に向かって「一緒にやるぞ」みたいな目線を飛ばしてくるのは止めてくれないか。そんな小学生みたいなことはしたくないぞ。


「職員会議は教育理念。理念は現実をイメージ化したものだから、会議で取り扱っているのは実態ではなくイメージ。あなたたちの部は、イジメの原因になりそうなイメージ。故に廃部」

「何それっ。なんとなく廃部って言うならなんとなくお断りよ! もう、千聖さんも何か言ってよ! こいつの屁理屈止めてっ」


 愛樹に振られて、黒板の前にいた千聖さんは少し目を伏せて考えた後に言った。


「昔の発想だと、活動してない部活は不良のたまり場だからな。不良はすぐ暴力をふるう、だからイジメの原因になる。教育者がよく言う屁理屈だよ。

 ま、そんなのに付き合う必要はないぞ。所詮はイメージの話だからな。いくら空想したところで、現実の方はびくともしない」


 おお、千聖さんかっこいい。黒板に書かれた「のぞき」の三文字がなければ完璧に決まっている。


「ええと、わたし、実績作り頑張るから、廃部にはしないで欲しいです」


 ももかが小さなか細い声で言った。彼女の真剣そうな顔は、ここがももかにとって大切な部であることを僕に思い出させた。


 ここがももかと周りの人をつなぐ、いわば結び目のような場所なんだ。

 もしそれがほどけてしまったら、ももかの形はなくなってしまうだろう。それだけは避けたかった。


「霊は不祥の器。部の処遇は来週の予算会議で決定。再来週には全校集会で廃部通告の予定。幽霊のような紛い物ものに関わらず、模範的な活動を求む」


 生徒会長はそう言い残して帰った。

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