第21話 変態少女
「……ほぅ。お前たち、そういう関係だったのか」
助けが欲しいという祈りが通じたのか。勝ち誇ったような声と共に、部室の奥のドアが開けられる。
そこから出てきたのは、女王様みたいな雰囲気の女の子だった。
愛樹よりも高そうな背をボリュームのあるウェーブのかかった髪が覆い、第一ボタンを開けられた胸元は他のボタンを弾き飛ばしてしまいそうなほどの存在感がある。
「あっ……千聖、それは誤解……」
千聖という少女が登場するやいなや、愛樹は借りてきた猫みたいに大人しくなった。千聖さんの校章の色から察するに上級生なので、遠慮しているのだろう。
愛樹はさっきまで力一杯振り上げていた手を、顔の前で必死に横に振っている。……結構かわいいとこもあるんだな。
「誤解? どこがどう誤解だったんだ?」
「わ、私とコイツがイイ関係になってるってことよ」
声を震わせて必死に弁解する愛樹に対して、千聖さんは微笑を絶やさずに追及する。
「ほぅ。私は『部活仲間という関係だったんだな』と言おうとしただけで、恋愛関係だとは一言も言ってないぞ」
「な……ななな……っ」
トリックに囚われた愛樹が、顔を赤くしている。それにしても、そんな技があるのか。今度使ってみようかな。
「な、の次は何だい?」
「なんでもない! それに、私も恋愛関係だなんて一言も言ってない!」
「なら初めからそういえばいいじゃないか」
愛樹が「くっ……」と、言葉に詰まった。どうやら、この千聖さんという人を敵に回すのは死を意味するらしい。しかも死をもたらす手段は公開処刑だ。それならさくっと殺してもらいたい。
「ちなみに私は、恋愛は大歓迎だ。部活内恋愛は内部抗争を起こす恐れもあるが、少しぐらいスリルがあったほうが面白いからな」
「だから違うって!」
肩で息をしながら必死に弁解する。
「ふ……ふたりとも喧嘩はやめて……」
ももかがか細い声で訴える。
「ところで、そこの少年は何者だ? 愛樹の愛人でないなら、ももかのか?」
「え……そ、そんなっ! 私には勿体無いよ~」
真っ赤になってぶんぶん顔を振るももか。なんか、この部は初々しいなぁ……
「ふむ。なら私が貰ってもいいのだな」
「うぅ……それはちょっと……。あ、でもれいくんがそうしたいって言うなら……しょうがないのかも」
「そうか。では早速試してみよう」
千聖さんが僕の方へ振り返りつつ言う。
「君はどういう人間なんだ」
いきなり重い質問をぶつけられて、圧迫面接を受けている気分になった。
何か面白い答えを要求しているのかもしれないが、僕にはそんなスキルはない。
「僕はももかに誘われてきたんですけど」
「それは嬉しい。我が部はちょうど男手を募集していたところだ」
……幽霊部に男手って要るのだろうか。
「最近、愛樹の暴力はエスカレートする一方だからな。私は言葉で抑えるくらいしか出来ないし、ももかが宥めても効かなくて困ってたんだ」
「人を暴れ牛みたいに言わないでくれる?」
僕は迫力に押されて一歩も動けなかったんだけど……まぁ不意をつかれなければ抑えられるかもしれない、多分。
「わかりました。全力をつくします」
「尽くすなっ!」
愛樹から視線のレーザービームが飛んでくる。怖いけど、千聖さんがいる間は多分手を出せないはずだ。
「では、君達を歓迎しよう」
千聖さんは、僕にふんわりとした笑顔を向けてくる。
急に女の子っぽい表情を魅せられてドキッとする。そして、隣のユキを一瞥した……ように見えた。
「君たち……って?」
心臓の音を聞きながら、恐る恐るたずねる。もしかしてこの人、「見えてる」?
「もちろん、愛樹と玲の関係を、だよ」
「だから違うって言ってるでしょ!!」
愛樹が騒ぐ声を遠くに聞きながら、僕は千聖さんに対する警戒心を強くした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます