第2話
「........ぢ、...ぢゅ、........ん"ん"」
すやすやと心地よさそうに寝息を立てていた何者かは、寝返りを打つなり不快そうな声を上げる。
起きるのか?と全員が身構えながら様子見をしていると、ゆっくりと身を起こした。
「ぢゅぁ........うわ、なに、なに?君ら誰?」
うつらうつらとしながらも五人の存在を感知したのか、首を傾げながら五人に声を掛けてきた。
敵対心はまるで無いものの、知性を持つ並の魔物なら仮にも英雄と呼ばれる人間が五人も身構えていれば怖じ気づくはずだがそんな様子は見られない。
「えぇっと....あー、十階層へようこそ?ここは俺のフロアで....いや、俺と俺の子供たちのフロアか」
一見、黒髪に黄緑の瞳を持つただの青年はハンモックから降りることなく五人を見下ろす形で間延びした説明をする。
「あ、あの!ぼ、僕は王国で冒険者ギルド本部のギルドマスターをしているイリェンと言います。強力な魔力反応により、ダンジョンの発生を確認しに来たのですが....」
困惑して話についていけない一同を見兼ね、勇気を振り絞り青年に声を掛けたのはイリェンだった。
見たところここはダンジョンに間違いないのだが、人間が住むダンジョンというのはまずありえない。
更には"階層"、"自分のフロア"、というような単語からここから下にもまだ何かがいるというのは間違いはない。
辺境にもほどがある場所ではあるが、もしも何も知らない冒険者が迷い込む可能性だって有り得なくはないのだ。
ギルドマスターとして確認する必要がある。
「いりぇ....イリェン、....あー、俺、君、知ってる。この前俺のこと見てた英雄君だ」
これほど仮定が確信に変わって嬉しくなかったことはあっただろうか。
イリェンの魔眼は世界中を見ても特別性能が良く、これまで彼透視や千里眼としての用途の魔眼で彼よりも高性能な魔眼持ちはまずいなかった。
この青年は魔眼の有用性だけでも英雄になれたと言われるイリェンの魔眼と同レベルの存在ということだ。
「ぢゅー........っぢ、よし。いいよ、ここのこと、教えてあげよう」
青年はにこやかに笑うとハンモックから飛び降りた。
「俺の名前はヴィゾ、
ハンモックから降り、地面に着くなり隠れていたヴィゾと名乗った青年の脚が露になる。
ヴィゾの脚は鳥と酷似していた。
「魔物か....?」
ユサクが小さく呟くと、ヴィゾは何が楽しいのか笑い始めてしまった。
「魔物ねぇ....あんなのと一緒にされたかねーなぁ....ま、鳳つっても鳥のジュージン?でもないし、ニンゲンでもないのは間違いないけど、何、俺のこと殺す?」
基本的に魔物は人間に危害を加えるので討伐するのが共通認識だが、ヴィゾに関しては何かが違う。
知性を持つ魔物でもここまでハッキリと自分の意思を持つのは古龍や長い時を生き延びた変異種、魔物以外では高位の精霊以外聞いたことがない。
殺すもなにも、まず五人にはヴィゾ殺せない可能性すらあるのにそれをわかってわざわざ言葉を選んだ節すらある。
相当な自信があるらしい。
「なぁヴィゾとかいう坊主、質問いいか?」
「ぢゅ....俺おっさんよりか長生きなんだけどなー、坊主呼びかぁ........うんうん、まぁいいよ。堅苦しくない感じ、凄くいい」
「そりゃどうも。....さっきイリェンのこと知ってるっつってたろ?お前さん、それはこの前見たから知ってたのか、それとも前から知ってたのか教えてくれるか?」
「
「....ぇ、あっ、僕ですか!?」
ケントルイドがヴィゾ質問を投げ掛けると、思いもよらない返答が返ってきたことにイリェンとビストが目を見開いた。
イリェンはヴィゾの言う"子供たち"がわからず、ビストは完全に蚊帳の外だったはずなのに急に話題の中心に放り込まれて困惑している。
「英雄君はよく色んなとこ走り回ってるから俺の子供たちが見かけてるんだよねぇ、ビスト君は....今はいいや。隠居の身としちゃ何度も英雄様が足繁く通ってくれるのは嬉しいんでね、今日のところは帰った帰った」
こうも曖昧に区切られてはヴィゾの言葉通り何度も通って話を聞くしか方法は........否、戦闘に持ち込んでもし勝てれば簡単に聞き出せるとは思うが全く見通しのつかないヴィゾの能力相手に今戦うのはベストじゃないし、ユサクやモンド、レイラは何故大人しく従わなければならないのか、何故曖昧な話だけするのかと不満そうな表情だがここは押さえてもらう他無い。
「....き、今日のところは、帰ります。また来ますので、あくまでも穏便に済ませましょうね」
「鳥の坊主、またな」
従う方が賢明だと判断したイリェンとケントルイドに渋々ついていく残りの三人の後ろ姿を、ヴィゾと、いつの間にか現れた小鳥たちが見守っていた。
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