十階層 小鳥の庭園
第1話
ダンジョン探索一回目。
木漏れ日に照らされ、心地よさそうにすやすやとハンモックで眠る一人の人間を目の前に英雄一行は唖然としていた。
*****
....時は遡り、二時間程前。
ダンジョン発見から一週間という早さで世界各地に散らばった英雄をイリェンが集めてからは更に怒涛のスピードで準備は進んでいった。
剣神のレイラと魔物使いのビストは連絡してすぐにOKと返事が返ってきたため、最初にイリェンの指定した四人は集まったが、イリェンが短期間で西へ東へと比喩ではなくその脚で走り回って更に二人。
蒼弓のユサクと堅牢のケントルイドを連れて帰ってきた。
後方支援のユサクと盾役のケントルイドに、最前線で戦えるレイラと戦闘に応用の利くモンドがいれば並大抵の魔物は攻撃をする前に倒すことが出来るし、弱い魔物が出た場合はビストが難なく対処出来ることだろう。
それに、なによりたったの一週間で西の最端の国にいたユサクと南東にいたケントルイドに接触して連れてくることに成功したイリェンに、モンドは脱帽ものだと称賛の言葉を送った。
「ねぇ、本当にその場所ってダンジョンなの?」
着実に準備を進め、イリェンの言うダンジョン付近まで来たところでレイラが口を開いた。
「ええ、はい。あの魔力反応に魔物の痕跡、何より地下に広がる空間からしてダンジョンかと」
「イリェンさんと並ぶ実力を持つような魔物がいるとはにわかに信じがたいですが....」
ユサクとレイラは他の英雄と比べて若手ということもあり出現したばかりのダンジョンの相場というものを知らない。
「楽観的に見ればイリェンの坊主みたく戦闘はからっきしの魔物かもしんねぇんだろ?なら大丈夫だろ、何せ俺らは英雄様だからな」
不安そうな若手二人をからからと笑い飛ばすと、大柄な中年男性....ケントルイドは早く行かないかとイリェンに促す。
悩んでいたところで実態など見えないのだから、手短に済ませようじゃないかという考えのようだ。
「イリェン、ケントルイドさんが先導してくれているんだ。俺はレイラと前に行くからお前は索敵とユサクを頼んだ」
モンドにも背中を押され、道具と武器の最終確認を終えたイリェンはその足を踏み出した。
鬱蒼と茂る森の中に、存在を主張するかのように大きく真新しい岩で出来た洞窟のような入り口が五人を出迎える。
ほの暗い洞窟を進むと地下へと降りる階段を見つけた。
罠や仕掛けが無いことを確認して螺旋状の確認を降りていく皆の表情はあまり優れていなかった。
というのも、ダンジョン内というのはそのダンジョンに生息する魔物やダンジョン自体の魔力が強ければ強いほど濃密になっており、階段を降りる度に英雄と讃えられた彼らでさえも余裕綽々とは言えない程に魔力濃度が濃くなっているからだ。
「....これ、私たちだけで大丈夫だったのかしら」
「大丈夫、だと思いますが....何せ、この下のには広いフロアがありますが魔物らしき生体反応は一つだけしかありません。今は此方を見ていませんが以前僕と目の合った何者かで間違いないと思います」
「流石に戦闘職が四人いて負けたら他の英雄に馬鹿にされちまうぜ?一人しか居ねぇってんなら気張らず行こうじゃねぇか」
階段を降り始めてどのぐらいたったろうか。
数十分の間淡々と降り続けた彼らはついに最後の段からフロアへと降り立った。
「........明るい?」
ほの暗かった階段とは一変し、暖かな日差しが一行を照らす。
地下に太陽光が届くことはありえないが、ダンジョン内は水でもマグマでも湧き出ることもある。
なんら驚くことは無い....と、思いたかった。
視界に広がるのはこれまで見てきたダンジョンとは全く違う庭園のような広間だった。
煉瓦造りの床に、無作為ではなくしっかりと植えられた木々、整えられた植物。
まるで人がわざわざ作り上げたかのような空間は無骨でただただ魔物の蔓延るだけだったダンジョンとは全く違う、異質な場所であり、これには全員驚かざるえなかった。
「本当にここ、ダンジョンか....?」
「すげぇな....王国の城と同じぐらい綺麗じゃねぇか」
感嘆の声を上げるモンドとケントルイド。
他の英雄も同じような反応をしている。
「....可笑しいですね、以前はすぐに僕を感知していた生体反応が此方を全く見ていない。寧ろ気付いていない...?奥に居るには居るんですが....」
イリェンの言葉に、更に五人は疑問を浮かべた。
もしかしてここはダンジョンではないのではないか。
誰かの作り上げた隠れ家やその類いではないのか。
その考えは生体反応のある場所に着いた途端、濃厚な説となってしまった。
何故なら、
「........人が、寝てるわ」
暖かな日差しの中、巨木に吊られたハンモックで眠る人間を見つけてしまったから。
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