迷宮暮らしのご隠居生活~静かに暮らしたいので英雄は帰ってどうぞ~

leito-ko

プロローグ 巨大迷宮


ほんの数年前、人々....否、世界の脅威であった魔王が倒され、世界には平和が訪れていた。


活発化していた魔物達も迷宮ダンジョンや森から出てきてわざわざ人里を襲うようなこともなくなり、穏やかな時がただただ過ぎ行く毎日。


魔王が猛威を奮っていた頃のダンジョンではドロップする武器や魔石、宝を求めて冒険者はダンジョン攻略に励んでいたが、魔王が倒されてからというもの、魔物の増殖も落ち着いてしまったため前ほどダンジョンに行く者は減ってしまった。


強大な敵に立ち向かうべく協力していた様々な種族も共通の敵がいなくなった瞬間に小競り合いを始め、魔王討伐での英雄の多くはその光景に呆れてそれぞれが好きなように生きると言って、次々に去って行く。


だがある日、冒険者ギルドにとある噂が舞い込んだことにより状況は一変する。


「だ、だだ、ダンジョンが!新たなダンジョンが、は、発見?というか、その、現れました!!!」


大きな音を立てて開かれたギルドの扉と、焦ったように声を張る弱々しく身体の細い青年の言葉にギルド内にいた冒険者達は話を止めた。


「おいおい、本当かぁ?ギルドマスターさんよぉ....ダンジョンは魔王がいるときにしか現れねぇんじゃねぇのかよ」


「ほ、本当ですよ!僕の眼が!魔眼が強大な魔力と地下迷宮らしきものを感知しましたから!」


本来、この青年のように一見非力な者が何を言おうと大抵の冒険者は耳を貸すことすらしないが、この青年は冒険者ギルド本部のギルドマスターであり、何より魔王討伐の英雄の一人でもあった。


「と、とりあえず、僕一人でちらっと中も視てきたんですが....中に居た何者かに気付かれてしまってですね...」


もごもごと口ごもるギルドマスターと、驚いたような反応をする周囲の冒険者。

すると、奥の部屋から一人の冒険者とおぼしき人物が出てきてはギルドマスターに声を掛けた。


「....諜報に優れたがイリェン気付かれたのか?お前にしては質の悪い冗談だな」


「か、か、完全に僕の方見てましたから....それほどまでに感知能力に優れた魔物か何かがいるので出来ればAランク以上の冒険者方に協力を募りたくてですね........あ、そう言えばモンドさんお暇でしたよね?丁度良いじゃないですか!是非ご協力お願いします」


イリェンと呼ばれたのはギルドマスター、呼んだ方がモンドという名前で、彼らは二人とも魔王討伐に参加していた。

イリェンは諜報能力で貢献し、モンドは大剣使いとして戦闘に貢献した人族の英雄だ。


「確かにここ数年は魔物が落ち着いてきたおかげで全盛期よりは暇だが....イリェンと同等かそれ以上の感知能力を持つ相手がいるのなら俺一人では行かんぞ。もう一人くらい英雄を連れてくるか此処にいる奴らを全員派遣してくれ」


イリェンの能力は非戦闘系ではあるものの、英雄と讃えられるだけに戦闘以外の面で優れていた。

彼の眼は遠くを見通す千里眼であり、彼保有するスキルである気配遮断を極めて得た数多くの諜報技術はダンジョン内の索敵を始め様々な場面で他の英雄の手助けをしたのだが、イリェンの言うことが正しければその新たなダンジョンには英雄クラスの索敵能力を持つ何者かがいるわけで、モンドからすれば単体で乗り込むには無謀にも等しかった。


そもそも、多くの英雄が思うように世界各地に散ってしまった現在ではギルドに所属している英雄も極端に減っている。

イリェンにモンド、残るは両手の指を使うと余るほどの人数だったはずだ。


「こ、今回は僕も行きますよ!代理はしっかりと立てますし、今から急いで各地の支部に連絡して皆さんをどうにか集めますから!」


なんなら自分が各地を回って直談判しますと言わんばかりの必死さからするに、イリェンからすれば相当な緊急事態なのだろう。

モンドは何とも言えない表情を浮かべつつも、必死さに気圧されたのか最後には渋々承諾した。


「ダンジョンの位置は何処だ?何処かの国に属した地域なら先に連絡が必要だぞ」


「この国の郊外の郊外、西の森の更に奥の辺境ですので出撃許可は僕が出せます」


「ダンジョンの大まかなランクは?」


「大きさから推定するにAランク相当ですがダンジョン内の存在が全て僕と同等かそれ以上なら問答無用で推定不可、もしくはありし日の魔王城同然です」


「一階層まで行くとして、他に誰を連れていくつもりだ」


「南の方に剣神のレイラさんと魔物使いのビスト君がいるはずなので先にそちらの二人にお声掛けを。その後他の支部に通達をします」


「最低四人か....まぁレイラとビストなら大丈夫だろうな」


深々とため息を吐いたモンドを尻目に、イリェンは既に他の英雄に向けての連絡準備を始めていた。

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