第13話女と魔女
問いかけられた女はすぐにパンと手を叩き。
「占い師ヘレナのことですね! 私、彼女とは友達ですよ」
嬉しそうにそういってくる。なるほど、この女と件の魔女は友人なのか……。
それは好都合。
「ではお主が儂にお礼をしたいというなら、今からその占い師に合わせろ。それで貸し借りなしだ」
そう女に言うが、女は多少難しい顔をする。
「あの……今夜じゃダメですか? ヘレナはその……日中はとても忙しくて。夜なら多少時間が空いてると思いますので……」
すいませんすいませんと儂に何度も頭を下げる。ここまで腰の低い人間を見るのは久方ぶりだ。
儂に委縮しておるのか? まあ先の儂の言動を見れば仕方ないのかもしれないが……。それよりも今夜か……。儂はあまり王都のなかをうろうろするわけにはいかない。多分聖騎士長が、今頃儂を全力で探しているに違いない。
見つかったらどうなることやら……。なのであまり王都を散策することはできない。まあよいか。
「おい娘。儂は今夜どこに行けばよいのだ?」
「あ、それなら私の部屋に来てください。ここからすぐ近くにある家に住んでいるので」
「この近く? もっと具体的に言って欲しいのだが……」
儂がそう言うと同時に、ぐぅぅぅと腹が鳴る。そういえばこの世界に来てからまだ一度も飯にありつけていない。もうかれこれ十日以上のまず食わず。
いくら超人的肉体を持っている儂でも、空腹には抗えん。
儂は腹の音を隠すためにわざと咳払いをしてみせるが、女は儂の腹を見て。
「お腹、空いてるんですか?」
なんて、ニヤニヤしながら聞いてくる。
「別に減っていない」
そう強がるが、腹は限界のようでもう一度情けない声を出す。
「ほら、また鳴ってますよ。私、こう見えてもお金持ちの家系で生まれたんです。昼ぐらい奢りますよ」
そう言って女はふふっと嬉しそうにして路地裏を抜けていった。
その後を儂はついていく。
路地裏を抜けたすぐ近くにあった飲食店の前に着くと、女は中に入っていった。
「いらっしゃっせー!」
むさ苦しい男どもが中に歓迎してくれる。脂っこいもんが出てきそうな店だな。
そんなことを思いつつ、儂らは飯を頼む。
「あの……そういえば名前なんですか?」
席に座ると、女はそんなことを聞いてきた。
「名前……?」
名前か……。そんなもの儂にあったか? 思い出せん。そもそも誰かに名前で呼ばれた記憶がない。「父さん」「あなた」「お前」「化け物」。
どれも儂の固有名詞を指すものはない。
「娘。儂のことは好きに呼んでくれ」
そう言うが、女は納得できない顔をしている。
「好きにって……。あと娘って言いますけど私、多分あなたとそう年は変わらないはずですよ。それに一応既婚者ですし」
「そうか……。なら女と呼ぶことにする」
「おんな……ですか……」
あまり納得していない様子。呼び方など些細なことをいちいち気にしなくても良いだろうに……。
「それで女。儂は訳あって王都をうろつくわけには行かぬのだ。だから夜までお主の部屋に居させてもらえないか?」
そう頼み込む。この女。多分だが頼まれたら断れない性格だ。それに加えて儂には恩がある。だからそこにつけ込んで頼み込む。まあ別に無理な頼みじゃないし断れることはないだろう。
そして案の定女は。
「家……ですか……。わかりました。どうせ今夜うちにヘレナを呼ぶ予定ですし」
頼みを聞いてくれた。
「そうか。では早速お主の家に向かうとしよう」
「えぇ、ちょっと! 私まだ食べてるんですけど」
早急に目の前の飯を腹に詰め込むと、儂は一足先に店を出る
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