第12話愚者

 儂は明らかに面倒ごとが起こりそうな予感を察知し、多少早歩きでその男たちの横を抜けよとするが、一瞬だけ絡まれている女と目があう。

 

「あの、助けてください!」


 そして案の定声をかけられる。何なのだ。今儂は完全に見て見ぬ振りをしようとしていたではないか。空気を読んで欲しいものだ。

 まあよい。無視して進むか。儂は女の声が聞こえないふりをして路地裏を抜けようとするが。

 

「あの、お金ならいくらでもあげます。なので助けてください!」


 先ほどよりも大きな声で儂に助けを求めてくる。ただでさえ儂は門番や聖騎士長に目をつけられているのだ。こんな場面を見られたら間違いなくここに居づらくなる。

 ピタッと足を止めると、儂は女の方に顔を向ける。


「どこに儂がお主を助ける義理がある? 貴様を助けたとして、儂に得はあるのか?」

 

「だからお金を……」


「いらぬ」


 女の言葉を一蹴いっしゅうする。


「これ以上儂に助けを求めるな。絡まれたお主の運のなさを呪え」


 そして儂は女を助けることなく、路地裏を抜けようとするが……。

 コツンっと儂の頭に硬い小石のようなものがぶつかる。


「おいおいおい。なに魔力なし落ちこぼれ偉そうなこと言ってんだ? 

 まるで俺らより強いみたいな物言いじゃねぇか」


 無視して進もうと思ったのに、次は女に絡んでいた男の一人が儂に突っかかってきた。儂は足元に転がる小石を拾い上げると。


「誰だ?」


 ものすごい形相で睨みつける。


「あん? 何が?」


 しかし男たちは恐れることなく、ヘラヘラとしている。その態度にさらに腹が立ち、儂は小石を指先で潰す。


「今儂に石を当てた愚か者は誰だと問うたのだ。応えろ」


「あーそれなら俺だぜ。どうした? 怒っちゃった?」


 ロン毛な男が下を出し煽ってくる。稚拙な煽り。だが乗ってやろう。人間ごときが儂にこのような態度。許すことはできぬ……。


「貴様の狼藉。万死に値する」


 儂はツカツカとゆっくり石を投げたロン毛の男の方へと歩みを進める。


「な……なんだよ。やろうっていうのか? 魔力なし落ちこぼれの分際で!」


 男は戦闘態勢に入り、魔法陣を発動させるために手を合わせようとするが、儂はその前に男の手をガチッと握り両腕を折り曲げる。

 ボキボキと骨が折れ肉が裂ける鈍い音がなり、男は痛みのあまり絶叫する。


「な……なんなんだお前。俺が何したっていうんだ!?」


「儂に小石を投げつけた。それに儂に対する態度も気に食わん。

 よいか? 貴様らは今、儂に生かされておることを自覚しろ。

 貴様らの言動一つで自分の首が飛ぶことを理解しろ。そして理解したならもう二度と儂の前に現れるな」


 そう脅すと、男たちはヒィィィと情けない声をあげて逃げていった。おおごとにならなければよいが……。まあ大丈夫だろう。

 ここにはそこまで長居する気はない。魔女とやらに賢者についての情報をもらったらすぐに魔族の領地に戻る予定だ。

 儂はパンパンと汚れを落とすように手をはたくと、先ほど進んでいた道を行こうとするが……。


「あの、ありがとうございます……」


 震えている女が儂に頭を下げて感謝を述べている。そういえば居たな。


「別にお主を助けたわけではない。あやつらが絡んできたから、それに対する罰を与えたのみだ。決して貴様を救ったわけではない。勘違いするな。だから礼もいらん」


 そういうが、女は納得できない様子だ。


「それでもあなたに助けられたことに代わりはありません。なのでどうかお礼をさせてください」

 

 なんとも強情な女だ。だが勝手に恩を感じているならそれを利用する。ちょうど聞きたいこともあるしな。儂は女の方に顔を向けると。


「ではお主。占い師の魔女とやらを知っているか?」

 

 そう問いかける。

































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る