第10話高揚感
「ふふ……よいぞ。聖騎士長なるお主の実力、儂に見せてみろ」
くいくいと指で煽ると、聖騎士長なる男はニヤッと笑みを浮かべ、背中に担いでいる大剣で儂に向かって切り掛かってくる。
ブンブンと全身で剣を振り回してくる。確かにこんなもの当たれば致命傷になる可能性もある。しかしどんな攻撃も当たらなければ意味がない。
「この程度か? そこの門番に毛が生えた程度の実力だな」
またも挑発。儂はこの世界の戦闘が存外好きなのだ。魔術による新しい戦い。新しいものへの好奇心が治らん。だから手を抜かない、全力の相手を儂の持てる力で地に伏せたい。
儂の煽りに聖騎士長は動揺するでもなく。
「確かにこのままじゃちとキツイか……。それじゃあ遠慮なくっ!」
バンと手を交差させると。
「魔法陣展開・白。身体強化」
白い光とともに、男の体がふわふわと白い光に包まれる。身体強化……? もしかして魔術というのは、環境を使った攻撃以外のこともできるのか?
そう考えると同時に、聖騎士長は先ほどの数十倍の速さで切り掛かってくる。
何だこの速さ!? こんな大剣を持ちながらこの速さなど、到底人間の出る速度ではない。儂でさえあんなものを持ちながらこれほどのスピードが出せるかどうか……。
しかし対応できないわけじゃない。久しく本気で動いていなかったせいで体の動かし方をまだ完璧には思い出せないが、徐々にエンジンがかかってきた。
相手の速度も、剣ではなく体、腕、手首を見れば大方どこから攻撃が飛んでくるのかわかる。
「おいおい嘘だろ。これでも
大剣を振り回す男の額に汗が滲んでくる。それと同時にザッと後ろに大きく距離を取ると。
「おいそこの男。これが全力か? 聖騎士長などという肩書きも大したことないものだな」
さらに煽る。もっと戦いたい。儂は戦闘が好きだ。人を殺すのが好きだ。絶望に打ちひしがれる相手の表情を見るのが好きだ。戦闘における全ての物事が楽しくて仕方ない。此奴の全力を完封なきまで叩き潰したい!
グッとより一層拳に力を入れて、戦闘態勢をとる。男も儂の表情が変わったのを察し、新たに魔法陣を展開する。
「魔法陣展開・白。
やる気のかかった一声。何も飛んでこない。おそらく自身の能力を強化するもの。
「そこのお前。これで生きてたら
男はそういうと、全力で切り掛かってくる。その速度は儂の本気の速度に勝るとも劣らない速度。
何だこの速さ。この速さをあんな大剣を持ちながら出せるだと……。いきなり虚をつかれ、多少動揺する。正直舐めていた。あっちの世界では、儂は間違いなく最強だった。
人の身でありながら、人ならざるものの力を宿していた。儂の次に強いともてはやされていた男も、儂が軽く殴ったら簡単に死んだ。だからこの世界でも儂は最強だと思っていた。
しかし現実は違う。この世界には魔術なるものが存在する。それは環境を利用したり、何もないところから災害を発生させたり、自分の能力を何倍にも向上させるもの。
この世界と儂がいた世界で決定的に違うものは
つまりこの世界で最も必要な才能が、儂にはないのだ……。
何と面白いことか……。これほどの高揚感は初めてかもしれぬ。未知なる強敵。
生死を賭けた戦い。戦闘というものは儂にとってはただの娯楽であった。本気を出さなくても死ぬことは決してなく、儂が負けることなど絶対にありえなかった。
でもこの世界では違う。たった一つ選択肢を間違えれば簡単に死ぬ。そう……! これが本物の戦闘だ!
儂はものすごい速度で振りかかってくるけんをギリギリのところで避け続ける。しかし避けるのにも限度がある。そこで目についたのが、倒れていた門番の腰にある細い剣。儂は一瞬の隙に門番の元まで近寄る。
「お主の剣、借りるぞ」
門番から剣を強引に奪うと、鞘から剣を抜く。こんな細剣であんな大剣を受け止めれば簡単に折られる。
そんなのは見れば誰でもわかる。じゃあ何故剣を門番から奪ったか。
門番の剣を構えると同時に、聖騎士長が大剣を振り下ろしてくる。
儂はその眼前にある大剣の横を、細剣で軽く当て攻撃を
相手の隙をつく。戦闘において最も大事なこと。そしてその隙は自分で作る。
聖騎士長は、儂に剣を当てられず焦りと苛立ちを感じてきいる。そこで儂はわざとよろける。そのタイミングで、聖騎士長は渾身の一撃を放ってくる。
ここだ。腕に全力を使い、体幹が前に向いている。
そこで儂は聖騎士長の懐に入ると、足払いをする。剣の重さと自分の体重によりバランスを崩した聖騎士長は、ドデンと大きな音を立ててすっ転び、儂は倒れている聖騎士長の首元に細剣を突きつける。
「儂の勝ちだな。王都には入らせてもらう」
儂の言葉に聖騎士長は。
「あんた一体何者だ? 魔術もなしに俺の攻撃を……。もしかしたら
春香……? 確か東洋の方でそんな名前の人種が多くいたような……。
もしかして! ニヤッと笑うと、倒れている聖騎士長に問いかける。
「おい。その春香なるものが、転生者か?」
その問いに男は。
「あぁ、そうだぜ」
そう答えた。
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