第9話戦闘①
「うおおおおぉぉ」
雄叫び声とともに門番は儂の方へ斬りかかってくる。しかし大振りすぎる。スピードも遅すぎる。
スッと体を反らすと、門番の剣はスカッと空を切った。
「チッ! まだまだ!」
それからも門番は儂めがけてがむしゃらに剣で切りつけてくるが、儂はそれをいともたやすく躱す。
ざっざっとなんども剣を振る門番は、既に息が上がっている。
「どうしたどうした? その程度の実力でよく門番が務まるものだな。お主程度のやつになら、ここから一歩も動かなくとも勝てるわ」
さらに挑発。門番の疲れ切り汗ばんでいる額に血管が浮き上がる。目は本気で儂に殺意を向けている。
「な……なめるなぁあ!」
バン! と手を合わせそれを交差させると。
「魔法陣展開・白!」
魔法陣を展開してくる。ようやく本気というわけか。そして門番は魔法陣の上でパンと手を叩くと。
「フラッシュ!」
そう叫んだ。すると儂の視界は真っ白になる。なるほど。こんなこともできるのか。確かに厄介な技だ。常人だったらな!
五感の一つであり、もっとも多用する視覚を奪われれば、誰でも混乱する。情報のほとんどを視覚から受け取っているのだから、それがいきなり遮断されたとなれば誰しも驚く。
だが儂には意味のないこと。視覚が奪われたのなら、聴覚を使えばいい。敵の足音、呼吸音、防具が当たる音。聴覚に意識を向ければ、どこからどう攻撃してくるのか丸分かり。
そして視覚が潰されたことで普段はないものが現れる。それが気配。生物であれば誰しもが携えている生命エネルギー。
しかしそんなものは普段見えもしない。何の訓練も積んでいない素人が目を瞑っても相手の気配など微かにしかわからない。
しかし戦場で多くの殺気を浴び続けてきた儂は違う。相手の殺気を感知して、まるで見えているかのように動くことができる。
見えはしないが、門番がザザざっとこちらに向かって走ってくる音がする。
「ふん!」
完全に殺す勢いの剣筋。だが大振り。こんなものを何万回振られようとも、一発も
「ほれほれどうした。目を瞑っても当たらないぞ!」
さっさっとその場で足を一歩も動かさずに体を反らせて避け続ける。
「クソ! ならこれでどうだ! 魔法陣展開・赤! マグマ嵐!」
そう唱えると、一気に周りの温度が高くなるのを感じる。今どうなっているのか、もう視覚が戻った儂はゆっくりと目を開ける。
するとそこに広がっていたのは、一面真っ赤の空だった。まるで空からマグマの塊でも垂らしたのかというほどの、一面真っ赤のマグマが儂に降ってきた。
なるほど。面白い! 剣の腕が未熟でも、これほどの魔法を扱えるなら門番も務まるというものか!
儂は目の前に広がるマグマに向けて、全身全霊の拳を
「なん……だと……」
あっけにとられているような、驚いてまとも声も出ていない門番は、へにゃりと腰を曲げて尻を地面に着けた。
「もうわかっただろ? 儂の方が実力が上。王都に入らせてもらうぞ」
儂が門から堂々と中に入ろうとすると、グッと剣を杖にして門番は立ち上がり。
「ダメだ! 貴様のように魔力もないのにそれほどの力を持っている不審者を中に入れるわけにはいかない」
「はぁ? 実力者は中に入ることができるといったのはお主ではないか。儂はお主の選別に合格するぐらいの実力を示したと思うが……」
「それでもダメだ。貴様ほどの実力者が無名であるのはおかしい。ある程度の実力を兼ね備えていれば、一度ぐらいは耳にするはず。なのに貴様のことなど俺は全く知らない。
貴様、名を何と言う?」
「名か……。名前など忘れた。好きなように呼んでくれて構わぬ」
「名がないだと!? 余計通せるか!」
「お主も融通の利かぬ奴だな。もう貴様の許可などいらぬ。勝手に入るぞ」
儂は門番の横を通り抜け、王都に入ろうとすると。
「ちょっと待ちな」
低い声の分厚い鎧を纏った男に止められる。
「せ……聖騎士長様!」
「おぉ、ユガナ。ずいぶん疲れてるみたいだが、一体何事だ」
「実はそこの男が王都に入ろうとしてきたのですが、得体の知れないので止めたら返り討ちにあいまして」
「おい小僧。儂は貴様に指の一本も触れてないぞ。貴様が勝手に剣を振るって疲れてるだけだろう」
「な……もう一度勝負だ!」
門番は儂の言葉に苛立ち、また向かってこようとするが。
「まぁ待て」
グッと片手で聖騎士長なる男に持ち上げられる。
「どうせやっても結果は見えてんだろ。いいから休んどけ、代わりのやつを手配する。それとそこのお前」
聖騎士長は儂の方に顔を向けると。
「俺に勝ったら中に入れてやる」
ニヤリと笑みを浮かべ、儂に喧嘩を吹っかけてきた。
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