第7話始めての人間

 人間の領土に向かっている途中で色々と今後のことについて考えていた。

 まずキマリと別れてしまったが、どうやって合流しようかということ。何の連絡手段もなしにこの広い世界でまた出会えるとは思えない。

 キマリとの出会いも偶然の邂逅だったわけだし、もう一度キマリと会うのは無理な気がしてきた。

 まあでもあやつは見るからに無能そうだからな……。賢者に対して有力な情報を聞き出せるとは到底思えぬが。

 まあ一旦キマリのことは置いといて、次に魔族の長となることだ。このまま無作為に飛び込んで勝てるほど人間は弱くないと思っている。

 特に儂と同じ転生者なるものが存在するならば、一筋縄では行かぬと思われる。

 しかし魔族の長などどうすればいいのだ? 魔族で一番強いやつを殺せば自動的に長になるのか? 

 魔族は強いやつに従うものだとキマリも行っていたし、魔族の中で一番偉い奴が一番強いのだろう。

 そしてそやつを殺せば儂が長になれる。案外簡単に事は運びそうじゃな。

 そして今後の方針などを一人でブツブツ走りながら考えているうちに、気がついたら人間の村らしきところに到着した。遠目から少しだけ見てみると、少数だが人間が畑を耕したり薪を斧で切っていたりしている。

 なるほど……確かに人間だ。

 儂は若干キマリの言葉を完璧には信用していなかった。なので自分でわざわざ人間の土地まで足を運ぶと決めた。

 そして人間が本当に存在していることに今安堵している。それと同時に安堵とは全く正反対の感情であろう憎悪も感じている。

 この気持ち、この憤り。今にもあそこで呑気にしている平和ボケした人間どもを全員殺してしまいそうなぐらい体が疼いている。

 だがまだ我慢。ここで己を律せぬようでは今後に影響が出る。好き勝手やってもなんとかなっていた昔とは違うのだから。

 儂は村の外で葉巻のようなものを吸っているいかにもガラの悪そうな三人組の男の方へ寄っていく。


「なぁお主ら。いきなりですまぬが何か賢者について知っておることはないか?」


 いきなり話しかけられた男たちは最初、怪訝そうな顔をするが儂の体を見るなり笑い出す。


「なんだこいつ!? 魔力なし落ちこぼれのくせにすげー上からじゃん」


 一番儂の近くにいたガタイのよい男がはじめにバカにし。


「カスのくせに気安く話しかけんなよ」


 その横に座っていた金髪の男も続くように貶し。


「どっかいけよ」


 小太りの男もそれに便乗した。

 急に浴びせられる罵詈雑言。一瞬で頭に全ての血が上ったような、抑えられない怒り。気がつくと儂は、一番近くにいた最初にバカにしてきた男の首を素手で吹っ飛ばしていた。

 ドゴっという音を立てて吹き飛ぶ仲間の顔面を見て、二人の男は青ざめていく。


「な……なんなんだお前?」


「なんだとはなんだ? 儂はただ賢者について知っていることを申せと言ったのだ。それなのに儂を貶してきたお主らの方に非があると思わぬか。素直に聞かれたことを答えておけば良いものを……」


「そ……そんな理由で殺すのかよ」


「そうだ。貴様らが人間で、儂を愚弄したというだけで十分殺す動機になる」


「い……イカれてやがる」


「ん?」


 ギロッと睨みをきかせると、金髪の男は萎縮する。


「わ……わかった。だから揉め事は勘弁してくれ。確かに俺たちに非があった。そのことについては謝罪する」


 青ざめた顔でペコペコと二人の男は儂に頭を下げる。これは少し気分がよい。


「それで、賢者のことは?」


「そ……それは悪いが知らないんだ……」


 ビクビクと怯えながら、金髪の男は続ける。


「でも王都に行けばなんでも占える魔女がいるって聞いたことがある。そいつに聞けば、賢者の居場所もわかるかも……しれません」


 最後は恐怖で儂に敬語を使う金髪の男。王都ねぇ……。


「おい小僧。その王都とやらはどこにある?」


「はい……。ここから南西に何百キロと進んだところにあります」


 スッと王都がある方を指差す。なるほど、では次の目的地が決まったな。

 儂は金髪の男が指差した方へと走ろうとするが、その前に一つだけ忠告することを思い出し、顔を金髪の男と小太りの男の方へと近づけ。


「この男は魔物に顔を潰されたことにしろ。その方が儂にとって都合がよい。間違っても儂が殺したなどとは言うなよ。

 他の村人にこのことを嘘を交えず話したことが露呈すれば、命はないと思え」


 儂は男たちを脅すと、またも走り出す。
























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