第6話魔術
「この儂が魔術を使えないと? なぜだ?」
「はい……。魔術を使うには少なからず体内に流れている魔力を使う必要があります。しかしその魔力が主人様には流れていません」
「ふむ。なぜそんなことがわかる?」
「それは、魔力が流れているものは魔力視といって、生まれつき他者の魔力量を見ることができるのです。しかし主人様の体には魔力が一切流れていません。
先ほど我が村のものが主人様を笑い者にしたのも、魔力量を見てのことでしょう」
なるほど……。それは困ったのか? 自分でもよくわからない。正直なところ儂は魔術なんて代物を使わなくても強いと思う。
魔術とやらが使えないのは残念なことだが、そこまで悲観するほどのことでもないような気がする。
先ほどキマリが使用した土壁を生成する程度のことしかできないのであれば、別段困ることもないだろう。
でも少なからず魔術に興味を抱いているのは確かだ。本の中の話が現実で起こっているとなれば、誰しも少なからず興味を抱くものだろう。
「まあ儂に魔術が使えないのはわかった。だったらそれはそれで構わんから、もう一度お主が先ほど使った魔術を見せてくれないか?」
「はい。そんなことでよければいくらでも」
キマリはかしこまりましたと頭を下げると、家の外に出て行く。
「では魔術を発動する際の条件なのですが、まず発動に必要な魔力。そして魔法陣。最後に儀式でございます」
「うん? まあ百聞は一見にしかずというし、とりあえずやってみてはくれぬか?」
「わかりました。では」
キマリはグワッと目を見開くと、両手を組み。
「魔法陣展開・黒」
という言葉を放つ。するとキマリの足元から白い輝きを放つ文字の書かれた円状のものが浮かび上がる。そしてそれは黒色に変化した。
「これが魔法陣。魔法陣を展開した後に使う属性を祈りながら言葉にします。とりあえず先ほど私が使ったのは黒属性なので、今は黒の魔法陣が浮かび上がっています。
そして次は儀式。この魔法陣の上で使う技に適した儀式を手で結びます。
今から使う
キマリは魔法陣の上でぎゅっと優しく両手で空気を包み込むようなことをすると。
「土壁」
そう唱える。すると地面の土が先ほどと同様にもり上がり、儂を真っ暗闇の隙間一つない土の空間に閉じ込めた。それを儂は蹴り破る。
「ふむ。魔術というのはこの程度のことしかできぬのか? こんなもの足止めにもならぬが……」
「いえ、これは最低レベルの一つ上のDランク魔術でございます。もっと上のランクの魔術なら実用性もございますので」
「ほう……。ならもう少し上のランクの魔術を見せてみろ」
そういうとキマリは申し訳なさそうな顔をし。
「私は低位の魔族。Dランクが私の使える中でもっとも優れた魔術なのです」
「ふむ。なら仕方ない」
そもそももっと高レベルの魔術を使えるのなら、さっき儂と戦闘した時に使ってるはずだしな。
「キマリよ。魔力がないものでも魔術を使えるようになることはできぬのか?」
「まことに申し訳ないのですが、私の持っている知識では知り得ません。しかし賢者様ならあるいはその方法を知っているかもしれません」
「賢者?」
「はい。この世に存在する全ての知識を持っていると言われる大変博識なお方だとか。しかし何処にいるのか何をしているのか、素性の知れない方でもあり、実際は存在しないという噂も……」
なるほど賢者か。大層な名前だが、そんな肩書きを背負っているぐらいなら儂の知りたいことも知っている可能性が高い。今の所他に手がかりはないし……決まりだな。
「おいキマリ。これからの当面の目標はその賢者を探すこととする」
「はい、かしこまりました」
「では儂は情報を集めるためにここを離れるが、お主はどうする?」
「はい。私は主人様の
「ふむ、そうか……」
命令か。しかしこやつにしてほしいことなど特にない。でも適当にここで遊ばせておくのも違うか……。
「ならばお主はこの魔族の領地で賢者に関する情報を集めろ。儂は人間の領地に赴き情報を集める。それで良いか?」
「はい。しかし主人様一人で人間のところへ行かれるのですか?」
「まあそうだな。なに、心配するな。揉め事は起こさんように気をつける。ここで儂が魔族側の転生者だとバレるわけには行かないしな」
「わかりました。くれぐれも気をつけてください。人間が住む領土はここからずっと北を進むとありますので」
ピッとキマリは人間の領地の方へ指をさす。
「そうか。では行ってくる」
そうして儂は人間の領土の方へと走っていった。
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