5、熱はないね
サッカーグラウンドをぐるりと取り囲むように張られたフェンスをさらに取り囲むは女子、女子、女子。
想像を遥かに超えた数の多さと黄色い歓声に
そのせいで中の様子が一切伺えない。つまり、桃矢が何処にいるのかもわからないのだ。
「あの、どうかされました?」
キョロキョロと辺りを伺っていると、背後から声をかけられる。振り返ってみると、そこには
マネージャー。
身なりからそう判断した璃子は、思い切って話しかける。
「すみません、
するとマネージャーの顔色がサッと変わる。
「ごめんなさい。ファンの方、特に他校の方はお通しできないんです」
ファン、という不名誉極まりない単語は聞き流すことにする。
「じゃあ、
「赤城くんもちょっと・・・」
「えっ、壮ちゃんもダメなんですか?」
桃矢が面会NGな理由はなんとなくわかる。全てはあの顔面のせいだ。しかし、壮馬までも・・・と純粋に驚いてしまう。
「・・・あの、赤城くんとどういったご関係ですか?」
「いとこです」
「・・・いとこ?」
「はい。壮ちゃんの父親とわたしの父親が兄弟です。赤城璃子って言って貰えばわかると思います」
マネージャーは信じていないのか訝しげにしばらく眉を寄せていたが、「わかりました」と小さく頷く。
「次の休憩が十分後なので、それまで待ってもらってもいいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
大きな荷物を持ってグランドの方へとマネージャーが消えていく。
スマホで時間を確認すると、もう十六時を回っていた。
「・・・先に連絡しとくか」
璃子は手早く連絡先を開くと、電話をかけ始めた。
ちょうど十分経った頃、高らかな笛の音が鳴り響いた。それまでフェンスに張り付いていた女子達が慌ただしく動き始める。どうやら休憩の時間に入ったようだ。
しばらくそのまま待っていると、出入口から体格の良い男が二人出てきた。キョロキョロと辺りを見回していたので、手を上げるとすぐに気付いた桃矢が女子の輪を掻き分けこちらに駆けてくる。
「ごめん、待たせたね」
「うん。まあまあね」
「おい、何か用か?」
少し遅れて壮馬もやってくる。
「あっ、そうそう。これ桃矢に」
鞄から包み紙を取り出して渡す。
「りっちゃんが俺に・・・?」
「ううん。それ
「えっ・・・」
ぱあっと輝いていた桃矢の顔が、一瞬にして曇る。
「・・・それで、俺には何の用だ」
「うん?ああ、特になし・・・と言いたかったんだけど、今日卸屋さんが来るから一緒に立ち会ってくれない?」
普段は一人でも大丈夫なのだが、今日の相手は少しばかり勝手が違う。
そして態々こうやって頼むということは、誰と言わずとも壮馬もよく理解している。
「・・・はぁ、わかった。じゃあ、いつもの時間に行く」
「ありがとう。二人とも部活がんばってね」
「おう。ほら、雪村、行くぞ」
ぼんやりしている桃矢の脇腹を壮馬が軽くどつき、「ぐっ」と小さな呻き声があがった。
「・・・うん、またねりっちゃん」
ひらりと手を振った桃矢が壮馬に続いてグランドに戻ろうとする。
「・・・ちょっと待って」
「え?」
振り返った桃矢の腕を掴み、引き止める。
身長差のせいか自然と桃矢が顔が下を向いた。チャンスだ。
「・・・うん、熱はないね」
桃矢は昔からぼんやりしている時は熱があることが多かった。今回も同じかと思っていたが、違ったらしい。
「・・・何やってんだお前ら」
もっと前にいたはずなのに戻ってきた壮馬が呆れた声を上げる。
「桃矢が熱出したかと思って確認してただけ。でも大丈夫みたい」
桃矢の額から自分の額を離す。
「じゃあ、壮馬また後でね」
「おう。気をつけろよ・・・・・・・・お前も大変だな」
壮馬が桃矢の肩を叩く。
「・・・絶対に面白がってるだろ」
キッと睨みあげた桃矢の顔は夕日に照らされたかのように色づいていた。
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