月喰みのかぐや姫 ー短編版ー
大宮 葉月
第一話 真夜中の竹林にて
「
月明かりに照らされた真夜中の竹林。黒檀のように艶のあるロングヘアの少女? が叫ぶ。
上は紺色のブレザーに首筋に黄色のスカーフを巻き、ストライプ柄のショートスカートの下は健康的な肌色の素足を惜しげもなく晒している。雑草を踏みしめるローファーは激しい動きには不向きのようで、何度も転びかけその度に踏ん張りを利かせて、地面を踏みしめる。
「……言われなくても分かってる。つぐみ」
闇夜の中にぼうっと浮かぶ直刃の太刀を構えるのは、後頭部で三つ編みを長く結った
草木も眠る丑三つ時、二人の周囲を取り囲むは煌々と怪しく燃える青い鬼火。
二人の眼前で闇が蠢く。幾重にも突き出される竹の槍が放たれるが、その悉くを朱那は太刀の一振りで斬り払った。
「ほう……儂の妖術で硬度を増した竹をすげなく断つか。流石は稀代の名刀と言われた妖を斬る太刀『
瘴気が渦を巻き、痩せさらばえた子供のような鬼が現れる。落ち窪んだ顔に眼球は無く、骸骨に人の皮を貼り付けただけのその風貌は明らかに人では無い。
————妖。人とは異なる理、時の流れに在る不確かな存在。されど、目の前にいるのは決してお化け屋敷に配置されているような特殊メイクを施された、お化けの格好をした人間でないことぐらいは、つぐみも分かっていた。
「————村で子供を攫っていたのはお前だな? 『餓鬼』」
「クカカ……。
喰らった子供が纏っていたのだろう、藍染の半纏を羽織る餓鬼は、せせら笑うようにしゃがれた声を出す。餓鬼の侮るような侮蔑にぎりっと歯噛みした朱那は、蛍火を納刀し柄に手をかけた。
「下級鬼如きが大口を叩く——。貴様の身に余る妖力は何処で手に入れた?」
「異なことを聞く。——ああ、半妖の目的はこの『万年竹』か? 平安の世に『竹取のかぐや』が残したと伝わる神器への道標であったか。カカッ」
餓鬼は突き出た腹を鼓を打つかのようにポンと叩く。血色の悪い青い腹の内より黄金色の光がふわっと現れ消えた。
「朱那……。餓鬼の腹! あの中に『万年竹』が飲み込まれてる……!」
「——言われずとも分かっている。大人しく飲み込んだ万年竹を差し出せ餓鬼。下級鬼には過ぎた代物なのだから」
蛍火の柄に手をかけたまま朱那は餓鬼から目を離さない。
鯉口を切り、今すぐにも斬り捨てたいが当たりどころが悪ければ、朱那が求める『万年竹』も割れてしまう。
その僅かな逡巡が……餓鬼の付け入る隙となるのは当然の流れであった。
「カカッ……儂が斬れぬか? 半妖の娘? そーら、お前が迷うているのなら、後ろの女子は儂がいただこうかのぅ」
「ひっ!? た、助けて朱那ぁぁぁ!?」
餓鬼の妖術なのだろう。いつの間にか、周囲を舞う鬼火がつぐみの身体に纏わりつき、舐め回すように肌を青い炎で炙る。性感帯をくすぐられるつぐみの嬌声に愉悦を浮かべる餓鬼は、鼓腹をポンと叩き再び妖気の渦を呼び出した。
「おうおう、いい声で鳴く。これだけ生きがよければ、さぞ——美味そうじゃ」
「……愚か者。それしきの妖術如き、お前の霊力で弾けないのか!?」
「そんなこと……出来る訳ないでしょうが!? くっ……はーなーしーてー!!」
ジタバタと鬼火から逃れようと暴れるつぐみだが、妖術の戒めは解けず、やがて糸が切れたようにぐったりとしてしまった。
「あの馬鹿……妖気に当てられて気絶しおって——」
「無駄なことよ……。ではな、半妖の娘。この
妖気の渦につぐみを抱えて消えようとする餓鬼は気付く。
ずっと女子だと思っていたが、この者の正体は? ……と。
「抜かったわ。これほどの霊力を持ちながら
「しまった——。つぐみ!」
慌ててつぐみの元へと駆ける朱那の前で、妖気の渦は描き消え、餓鬼も姿を消した。
お山を流れる夜風は生温く、夜が開けるまではまだ時間がある。
この時代より遥か未来から来たと自称するつぐみを追いかける為、朱那は餓鬼の妖気を鼻で辿り真夜中の竹林を跳ぶように疾走した。
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