第65話 ええ、運命的な再会をお楽しみください
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「ふぅ、これでもう大丈夫です」
カタリナは息を吐くと額の汗を拭った。
「ううっ……わ、私は助かったのか?」
カタリナの目の前では脂ぎった身体の中年の男が横たわっている。
名前をヘドロといい、数国に渡って商売をしている大商会の主だ。
「ええ、あなたにかかっていた呪いは完全に解呪しました」
ヘドロは汚い商売をしており、その上欲望に忠実な人間だった。
取引相手を騙したり、好みの女性を自分のモノにするため強引な手段を用いたり、とにかく良い噂を聞かない。
通常、呪いを解くと、かけた相手に返るようになっているのだが、今回、カタリナは呪った相手に同情してしまい、呪いが戻らぬようにより高度な解呪を行った。その為に普段の倍は疲労してしまったのだが……。
「ありがとうございます、聖女殿。あの噂に名高き聖女殿に解呪していただけるとは、これも女神ロザリーの導きかと」
両手を握ってくるヘドロ。その手の動きにカタリナはよこしまなものを感じ取り、背筋が冷たくなった。
「コホン。それでは寄付についてあちらでお話しをしましょうか」
依頼を持ってきたレミリアがそう促すと、ヘドロはカタリナから手を放した。
「おおっ、そうですな。私の命を救ってくれたのですから、寄付金は弾ませていただきますぞ」
二人に気付かれないように、カタリナはホッと息を吐いた。
これまで治癒してきた中で、もっとも多くの資産を持っているヘドロを連れ、部屋を出ていくレミリア。ヘドロの言葉を聞いて多くの寄付金が手に入ると口元を緩めていた。
「……今頃、アース様は何をされているんでしょうかね?」
カシューから離れ、聖国に戻って以来仕事に忙殺されている。
最初は人々の笑顔のため、約束のために始めた治癒士の仕事だが、最近は寄付金を集めるために様々な権力者の男の治癒をさせられている。
人々の笑顔ではなく、聖国の利益のために治癒魔法を使っていることに違和感を覚える。
「……あの人のように、周囲を笑顔にできたら……」
カタリナは一人ポツリと呟いた。
「本日の仕事はこれで終わりになります」
「わかりました……」
用意された部屋でカタリナは椅子にもたれかかると脱力していた。アースと別れてから二ヶ月、ヘドロの解呪をしてから一ヶ月、治癒の仕事はどんどん増え、毎日多くの有力者の相手をさせられた。
「……本当に明日から休暇をもらって良いのでしょうか?」
レミリアに確認をする。年の瀬が近いこともあり、聖国に人が増えていたからだ。
これからが本番だというのに、半月ほど前からレミリアが笑顔を見せるようになり、今回の休暇の予定をねじ込んで来たからだ。
勿論、休めるのは嬉しい。連日の治癒のせいで疲れているし、たまには骨休めもしたい。だが、他の人間が忙しそうにしている中というのは気が引けるのだ。
「はい、年末年始の祭事からカタリナ様を外すように働きかけてますので」
あのレミリアがそこまで言うのだ、いっそ不気味にうつるのだが無理して働く必要はないだろう。
「まあ、せっかくなので、そうさせていただきますけど……」
釈然としないものを感じる。これまでレミリアは隙あらば有力貴族や商人を相手にするようカタリナの仕事を詰め込んできたからだ。
「温泉と近くで採れる素材を活かした料理が素晴らしく、推薦がなければ予約がとれない宿ですから、日ごろの疲れをゆっくりと癒していただければと思います」
手配されているのはブレスの街の高級宿らしく、そのことにもカタリナは違和感を覚えていた。
「ありがとうございます。楽しませていただきますね」
そんなことをおくびにも出さず、カタリナはレミリアに微笑みかける。彼女がレミリアに御礼を言うと……。
「ええ、運命的な再会をお楽しみください」
レミリアは口元を隠すと笑い、意味深な言葉を口にするのだった。
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