第39話 これは最近になって使えるようになった転移魔法
「さて、それじゃあ街に戻るわよ」
朝食を終えるとラケシスがコップを置いてそう言った。
「あっ、お疲れ様です。帰りも気を付けてくださいね」
アースはお替りのカーシーを注ぎながらラケシスにそう言った。
「何言ってんのよ。あんたも帰るのよ」
まるで他人事のようにいうアース。ラケシスはそんなアースに呆れた表情を向ける。
「いえ、僕はまだここで作らなければならない物があるんですよ」
発酵させている調味料だったり、火入れをして鍛えている金属だったり、完全につきっきりになる必要はないが1日に1度は調整をしたい素材が結構あるのだ。
アースは自分が帰れない理由についてラケシスに丁寧に説明した。
「ん、問題ないわよそのぐらいなら」
だが、ラケシスは「なんだそんなことね」とばかりにアースの説明を一蹴する。
「どういうことなんですか?」
言葉足らずなラケシスの態度にアースは首を傾げた。するとラケシスは杖を取り出した。
「次元の扉よ開け!」
次の瞬間目の前が裂けて違う景色が広がっていた。
「ラケちんこれって……」
「まさか使えるのか?」
リーンとケイが驚きを見せる。
「この光景って……もしかしてアパートですか?」
見覚えがある建物。アースはゴクリと喉をならすとラケシスに聞いた。
「そうよ。これは最近使えるようになった転移魔法。これがあればログハウスとアパートの行き来なんて一瞬よ」
誇らしげに胸を張って見せるラケシス。そんなラケシスをみたアースは……。
「す、凄いですよラケシスさん。こんな魔法が使えるなんて反則ですよねっ!」
興奮すると尊敬の眼差しを向けた。ラケシスはやや頬を赤く染めると……。
「あ、あんたに言われたくはないけどね」
実際これまで見せてきたアースの技術も度し難い。そもそもラケシスが転移魔法を習得できたのもアースの杖があったからなのだ。
これまでは魔法を使うと壊れる上に魔力が暴走していた。それを抑えられたことによってラケシスはようやく魔法の練習ができるようになったのだ。
「これ冒険者ギルドに話したらラケシスは引っ張りだこになるな」
転移魔法の使い手は少ない。各国に十数人しかおらず、使い手はかなりの優遇措置を受けることができるのだ。
「最近は依頼の失敗によるペナルティもないし、まもなくS級かもにゃー」
リーンが口にしたS級冒険者というのは冒険者の目標でもある。
S級になれば貴族と同等の地位を得られるので、言い寄ってくる異性があとをたたなくなるとか。
元々、魔力暴走で危険人物扱いをされて敬遠されてきたラケシスもすっかり落ち着いた。いまでは冒険者の間でもかなり人気がある。
男の冒険者はその身体に目が釘付けになっているし、ケイやリーンの知り合いにもラケシスに好意を寄せる男は両手の指でも足りないぐらいだ。
「別に、これまで避けてきたような軟弱な男たちには興味がないわよ」
つまらなそうに言い捨てるラケシス。実績を作ったらすり寄ってきた冒険者たちにラケシスはうんざりしていた。
「これまで避けてきた……ね」
ケイが含みを持たせると「何か文句ある?」とばかりに睨みつける。
ケイは両手を上げて降参のポーズをとるのだが……。
「それじゃあ、問題は解決したから一緒に帰ろうよアースきゅん」
リーンがアースに抱き着くと帰宅を促した。
「そうですね、せっかく向こうに戻れるなら買い足したい物もあったんですよね。これでこのログハウスをもっと強化できますよ」
アースも嬉しそうに今後の計画を立て直し始める。
「おまえ、これでまだ足りてないのか?」
ケイが化け物を見るような目でアースを見る。短期間でここまで揃えただけでも異様なのにこいつはどこを目指しているのか?
「そうと決まれば帰りましょう! 何にせよ久々のアパートですからね。張り切って仕事をしなければ」
「うんうん。一杯汚しちゃったからアースきゅんじゃないと収拾がつかないの! 頼んだよっ!」
リーンとアースが転移していく。そんな様を溜息を吐いて見送ったラケシス。
次にケイが裂け目の前に立った。だが、転移する様子がなくラケシスの方を見る。
「ん。何よ?」
立ち止まったケイにラケシスは怪訝な視線を向けるのだが……。
「そういえば、疑問なんだけどさ?」
「……言ってみなさい」
「転移魔法が使えるなら昨日のうちに使っていればベッドの問題は解決したんじゃないか?」
ケイがからかうような言葉を発してニヤニヤと笑う。
「そっ、それは……その……」
急にしどろもどろになり視線を動かすラケシスだったが……。
「そっ、そろそろ維持するのがきつくなってきたから早く通り抜けてよ!」
結局、答えが思い浮かばずにケイを促す。
「まだ答えを聞いていないんだが?」
だが、なおも追及するケイ。そんなケイにラケシスは杖を向けると火の玉が発生した。
「い、いいからとっとと行きなさいっ!」
「ちょっ! 流石にシャレにならんだろっ!」
からかい過ぎたと顔を青くするケイ。そんなケイを脅しながら送り出す。
3人が消えていった先を睨みつけたラケシスは……。
「そんなこと聞くんじゃないわよ。あほ」
顔を赤くすると呟くのだった。
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