第40話 これ普通のオートマタということでお願いしますね
「も、もうだめ……疲れました」
息を切らしたアースはテーブルに突っ伏すと弱音を吐いた。それというのもまる半日かけてアパート中を掃除していたからだ。
「さ、流石アースきゅんだねっ! 見違えるようだよ」
「ま、まあこれからは汚さないように気を付けるわ」
リーンとラケシスが気まずそうに顔を逸らす。
「そう言うが多分無理だぞ。こいつらは典型的な片付けられない人種だからな」
ケイの言葉に2人の目つきが険しく変わる。
「ごめんなさい、流石にこれから御飯作る気力がないです」
子供の世話に疲れ果てたかのようなアース。
「だ、だったら外に食べに行こうよ! せっかくだからリーンちゃん奢っちゃうよ」
「私も、奢ってあげるわ」
そんな様子を見た二人は流石に悪いと思ったのか、しきりにアースの機嫌を取り始めた。
「お前らな……そんなことでアースが許すとでも――」
二人のあからさまな態度に、ケイは文句を言おうとするのだが……。
「良いんですかっ!? だったら僕、行ってみたい店があったんですよねっ!」
「――って単純だったな」
復活したアースをケイは呆れが混じった表情で見るのだった。
「いやー、昨日は得したなー」
翌日、アースは機嫌よく家事をしていた。
掃除で疲れているアースにリーンとラケシスとケイが晩飯を奢ってくれたのだ。
前々から行きたいと思いつつ、皆の夕飯の支度があるからと行くことができなかった店に連れて行ってもらった。
そこで料理を注文しては他の人間とシェアしたおかげで、いろんな料理を味わうことができた。
「子牛のローストの血のソースが絶品だったな。あれなら涼しい時期のサンドイッチにして皆に持たせたり……」
掃除をしながらぶつぶつと呟く。早速影響を受けており自分のレシピに応用しようと考えていた。
「それにしても掃除か……」
アパートの管理の仕事をすることでギルドに雇われている。
だが、アースはこれからも山奥のログハウスに籠ったりするつもりだった。
「定期的に片付けないと大変なんだけど、時間が足りなくなるんだよなぁ」
それこそやりたいことが無限にあるのだ。
このまま掃除の時間を取られるというのはそのやりたいことに対して大幅な時間のロスを生むことになる。
「そうすると……自動化するしかないか」
アースはにやりと笑うと楽しそうに歩き出すのだった。
「よし、あとはこれを組み上げて……」
目の前には人形のパーツが転がっている。
アースは悩むことなくそのパーツを組み上げていく。
手の指に関しては可動させる必要があるのでそれなりに細かく作っている。
「よし、完成だな」
やがて組みあがった人形をみて満足していると……。
「なに、今度は人形遊び?」
「違うよラケちん。訓練用の人形だよ」
たまたま帰宅した2人がアースの人形を目撃した。
「違いますよ。これは自動人形(オートマタ)ですよ」
「オ、オートマタって……貴族が使うやつ?」
「……最低ね」
何やら冷たい視線を2人から投げられたアース。
オートマタとは、本来人間に変わって色々と作業をさせることができる人形を指すのだが、古代文明が作ったオートマタは女性をかたどった精巧な人形で、質感や体温まで人間の女性を再現している。
貴族が夜のお供にと愛用している準アーティファクト級のアイテムである。
「2人とも誤解しているようですけど、僕は単に家事をさせるだけですから」
アースが欲しかったのは自分に変わってアパートの家事をする人形だ。
そのためにこうしてわざわざ人形を作り上げた。
「もし本当にそうだとしてもさ、オートマタって単純な命令しか組み込めないよね。臨機応変に家事なんてできるのかにゃー?」
基本的にオートマタが一度に受け付ける命令は1つだけだ。それ以上の命令をしたら前の命令がキャンセルされる。
「とりあえず起動実験してみますね」
アースは背中に回り込むとコアへと魔力を注ぎ込んだ。
「右手上げて!」
オートマタが右手を上げる。
「歩いてみて」
オートマタが歩いていく。途中に工具などが散らばっているのだが、避けていた。
「その辺の片付けお願い」
アースの命令を受けて工具を片付け始めた。
「そのオートマタ、どうやって命令を判断しているの?」
アースはあえておおざっぱな命令をした。
だというのに相手の意図を読み取って工具を片付け始めたオートマタを見てラケシスが目を見開く。
「普通のオートマタは中に命令を含めた魔法陣が組み込まれています」
稼働に問題が無いのを確認したアースは満足しながらも説明をする。
「というと、このオートマタは違うの?」
せかせかと片付けをしているオートマタを見る。
リーンの質問にアースは頷くと……。
「これは1つの魔法陣しか描きこんでないオートマタなんですよ」
「おかしくない? 少なくとも3つは命令したわよね?」
古代文明のオートマタは全身に魔法陣が描かれていて、命令の一つ一つに反応して行動を変えるのだ。当然ながら描かれていない命令に反応はできない。
「背中にはめ込んであるこの石は精霊石。そして描いてる魔法陣は魔力を変換して精霊石に力をため込むものです」
2人はアースの説明を素直に聞く。
「普通のオートマタは魔力をそのまま動力として使っていますけど、これは違います。動力は精霊なんですよ」
「えっ? 精霊ってあの?」
姿を見られる者は滅多におらず、使役できる人間はさらに少ない。だが精霊は確実に存在している。とある分野の人間は精霊を労働力として扱えないか研究をしていて未だ成果が上がっていないぐらいだ。
「魔力を注ぐと精霊石に力が宿ります。そこには力を求めて精霊が入り込みます。精霊は力をもらう代わりに命令を聞いてくれるんですよ」
アースの説明にリーンとラケシスが口を大きく開く。
その間にもオートマタは片づけを終えるとほうきを取り出しゴミを掃いている。
その動きは人間となんら変わりなく、意思を持って行動しているようにしかみえない。
「あ、あんたまた……とんでもない物を作ったわね」
日頃から非常識だと思っていたが、まさか最先端の技術をこうもあっさりと作るとは。
「どうしようラケちん、アースきゅんがまたやらかしちゃったよ」
戸惑いを覚える2人にアースは思い出したかのように笑顔を浮かべると……。
「あっ、このことは内緒で、これ普通のオートマタということでお願いしますね」
頭痛を覚える2人にアースは口止めをするのだった。
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