第38話 昨夜はお楽しみだったな?
「実は問題があるんです」
あれからアースとケイが風呂に入り、全員がログハウスに入った。
アースはそこで初めて悩むような表情を浮かべた。
「どうしたのだ、アース殿?」
ベーアが目を細める。
「実はですね、来客を想定していなかったのでベッドが足りないんですよ」
寝室として用意されているのはベーアとアースの部屋だけだ。
「ベーアさんの部屋にあるベッドは大きめに作ってあります」
ベーアの体格を考慮にいれて作ったのでベーアはこのベッドでなければ眠ることはできないだろう。
「もう1つのベッドは普通のサイズなんですよね」
自分用に作ったベッドなので1人が寝転がれれば十分とアースは考えて作っていた。
「ふむ、この場にいるのは5人で、ベッドは2つというわけか」
ベーアがアゴを撫でながらアースの言う問題を整理する。
「つまり3人はどこかで眠らなければならないというわけか」
ケイが核心に迫ると……。
「とりあえずベーアさんはベッドの規格が合わないのであの部屋で寝てください」
他に選択肢がないのでアースはそう提案する。
「すると残るベッドは1つだから、順番で考えるとアースが寝るべきだな」
ケイの言葉にリーンもラケシスも頷いた。
「そうだね。そもそもベッドが空いてないのは急に押しかけてきた私たちの問題だもん」
「私たちは別に外でも構わないわ」
特に揉めることなく割り振りが決まりそうになったのだが……。
「いや、僕が構いますよそんなの!」
全員の意見にアースは不満を漏らした。
「だって3人は散々遭難した上でここに辿り着いて疲れているはずじゃないですか。それならゆっくりと身体を休めたいはずでしょう!」
ケイとの風呂でどれだけ大変な目にあったかを聞いているアースはそう主張する。
「いや、それとこれとは別問題だよ。それに私たちは冒険者だよ。野宿にも慣れてるし、風が凌げる場所ってだけでも十分だしさ」
リーンが遠慮しようとするのだが、アースは不満げに睨みつける。
「いいから! あんたが使いなさいよ!」
そんなアースにラケシスが言うと。
「嫌ですっ! 3人が使わないなら僕だって使いませんからっ!」
「この頑固者っ!」
売り言葉に反応してラケシスの目がつりあがる。すると……。
「ちょっといいかのう?」
「なんですか?」
「何よっ!」
2人の視線がベーアへと向かう。
「そもそもワシは山に修行に来ているのでな、アース殿が寝床を用意してくれたのはありがたいが修行にならぬ。ワシは山籠もりをすることにしよう」
ベーアにしても、これ以上手厚く世話をされてしまっては山籠もりの意味がなくなってしまうのだ。
「そうですか……それなら仕方ないですね」
アースはそう言うと納得した。
「なら問題は解決したようなものですね」
「ん。どういうことだ?」
ケイが疑問を口にした。
「ベーアさんのベッドは体格に合わせて大きく作っているので数人であれば眠れます。リーンさんとラケシスさんが一緒でも十分なスペースは確保できますから」
ゆったり眠ってもらうつもりでキングサイズのベッドを用意したのだ。
「ケイさんには僕のベッドを使ってもらえればいいですからね。ちょっと体格からして狭いかもしれませんけど」
ケイも冒険者をしているので身体がでかく背も高い。足周りが窮屈かもしれないがそこは我慢してもらうしかないだろう。
「すまないな。世話になるよ」
ケイが頭を下げると……。
「それじゃああんたはどうするのよ?」
ラケシスはアースがどうするのか聞いてみる。
「僕は夜通し作業をするつもりです。そうすれば効率的じゃないですか」
「そ、それは……」
リーンが苦い顔をする。アースが自分たちのために休むのを後回しにしているのがわかったからだ。
「それじゃあ僕は用意があるので少しお待ちくださいね」
そう言って出ていこうとすると……。
「もう1つ解決方法があるわよ」
「へっ?」
ラケシスが睨みつけるようにアースに言うのだった。
「スースースー」
「ニヘヘー」
キングサイズのベッドから2人の寝息が聞こえてくる。
左を向けばラケシスが、右を向けばリーンの寝顔がアースの視界に飛び込んでくる。
先程ラケシスが「あんたは私たちがベッドを使わないなら使わないと言ったでしょう。なら私たちが使うなら使うって意味よね?」と言ったのだ。
ベーアのベッドはキングサイズなので無理をすれば3人が眠ることは十分に可能だ。
最初は断っていたアースだったのだが、リーンも乗り気になってしまい押し切られてしまった。
「普通この状況で眠れる?」
旅の疲れが出たのか、ラケシスもリーンもよく眠っているのだが、アースとて男だ。普段は何気なくリーンの誘惑を躱しているが、こうしてベッドインまでしてしまえば意識せずにはいられない。
2人の身体が身近にあるので体温が伝わり、息遣いが耳を打つ。
ラケシスの薄着の紐が肩から下がりたわわな胸を覗けそうになってしまい慌てて毛布を引き上げる。
寝ているはずのリーンが抱き着いてきて腕に柔らかい感触が伝わってくるのだが、振りほどくわけにもいかない。
「これなら夜通し作業している方が疲れないんじゃないかな?」
アースはそうぼやくと目を瞑り、これから作りたいアイテムの想像をすることでこの場を乗り切るのだった。
「よっ! 昨夜はお楽しみだったな?」
翌日の朝になり、リビングに降りるとケイが明るく話し掛けてきた。
「ケイさんこそゆっくり休めたようで何よりですね」
やや元気がないアースに苦笑して見せる。
なんだかんだでこれまでそういう表情を見せなかったので、普通の男みたいな様子をみれて嬉しかったのだ。
「あの2人は?」
「まだ寝ていますよ」
どうにか眠りに落ちたアースだったが、目が覚めてみると2人にサンドされていたのだ。どうにか起こさないように抜け出すのに相当苦労をした。
「それじゃあ、僕は朝食を作りますので。少々お待ちくださいね」
後日、アースは部屋の増築とベッドを作ることを決意するのだった。
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