第26話 僕にお任せください

 リーンはアパートの門に背を預けてぼーっとしていると、遠くから歩いてくる知り合いの姿が目に入った。


「あっ! ラケちん! おっかえりー」


「……ただいま」


 実に1週間ぶりにあうラケシスの姿だ。


 本来、街道を通れば徒歩でも3日で辿り着くのだが、ラケシスは魔力の暴走に他人を巻き込むのを恐れてか街道を避けたのだ。


 結果として森を突っ切ることになってしまったようだ。


「今回の依頼はファイアドレイクが2匹いたんだって? 災難だったよねー」


 アースに聞いたのだろう。ラケシスはなぜリーンが知っているのか納得すると、


「別に大したことはなかったわ。どっちも魔法で1発だったし」


 普段通りのふるまいをする。そして「コホン」と咳をしたかと思えば、


「ところでアースは問題ない?」


 リーンへと探りを入れた。


「アースきゅん?」


 リーンが首を傾げる。ラケシスはやや緊張しながらアースのことを聞いたのだが、リーンのその様子に肩透かしをくらった。


「リーン。あなたファイアドレイクの事アースに聞いたんじゃないの?」


 どうもお互いの認識に齟齬がある。ラケシスは首を傾げるとリーンに確認をとった。


「私は冒険者ギルドで話を聞いたんだよ?」


 リーンは顔が広い。色んな冒険者と友好があるので隣町程度の情報なら簡単に手に入るようだ。


「そういえばアースきゅんまだ戻ってきてないんだよね~?」


「えっ?」


 その言葉にラケシスの瞳が揺らぐ。


 あれから1週間も経っている。アースの用事は数日と聞いていた。本来ならとっくに戻ってきていてもおかしくないのだが…………。


「予定よりも随分と遅いけど、何かトラブルでもあったのかにゃ?」


 そこでラケシスは気付いた。


 リーンが門の前にいたのはアースが戻ってこないか待っていたからだ。


 自分はアースが無事に治療院を出てくるのを目撃したわけではない。リーンの言葉が本当だとするとアースはまだ隣町にいるということになる。


「もしかしてアース。重体で動けないんじゃ?」


 ラケシスは顔を青くすると呟くと……。


「それどういうことっ!?」


 リーンの目の色が変わるのだった。









「トーマスさん。小屋の建て直しが完了しましたよ」


 ラケシスが街をでた翌日。アースはラケシスの依頼主の元にいた。


「おおお、まさに見違えたようですな」


 なぜかというとラケシスが小屋を吹き飛ばしてしまったせいで、依頼主が途方にくれていたからだ。


「これはお礼です。受け取ってください」


 アースに呼ばれた牧場主のトーマスさんは小屋を見て驚いた。

 アースが「僕に建て直させてください」というので任せてみたが、元の小屋よりも全然しっかりとした作りになっているからだ。


「いえ、うちのギルドの人間が壊してしまったのですから……」


 アースとしてはラケシスが破壊した分を直しただけのつもりなのだが……。


「いえ、このお金なんですがポストに入ってましてな。手紙には『牧場の補填に使ってください』と書かれていたのです。そうなると建て直してくださったアースさんに支払うのが筋でしょう」


 そう言ってアースにお金を押し付けてくる。アースは困りながらも受け取るのだが……。


「そうだ、だったらこのお金で魔導具を買いましょう」


「魔導具ですか?」


「ええ、小屋はこの通り建て直しましたがまだ完ぺきではないですよね。家畜の乳を搾ったりバターを加工したりする道具を買い揃える必要があると思うんです」


「なるほど、確かに。ですが、そう簡単に仕入れられるようなものでもないような……?」


「安心してください。僕に伝手がありますので、数日待ってもらえれば用意できますよ」


 本来の目的はここで魔導具を作るつもりだったアース。遠心分離の魔導具なんかについては作り慣れているので片手間に片付けることができる。


「そんなに早くですか。是非お願いさせてください」


 トーマスさんがほっとした顔をする。現在、乳しぼりなどの作業を止めているので一刻も早く再開したいのだろう。


「僕にお任せください」


 そんなトーマスさんにアースは笑顔を向けると、胸を叩いて言うのだった。




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