第25話 他に方法が無かったのよ

「こちらが、今回の依頼料になります」


 ラケシスは依頼達成の報酬を受け取る。


「それとファイアドレイクについてですが、こちらで買取りということで宜しいでしょうか?」


「ええ、構わないわ。すぐに現金が欲しいから」


「わかりました。それではこちらがファイアドレイクの買取金額です」


 ラケシスの言葉に受付嬢は頷くとお金が入った袋をトレーに乗せた。

 Bランクモンスターのファイアドレイク。それも冷凍したので傷一つないため普段よりも高い金額で買い取られた。


 ラケシスは報酬を受け取ると冒険者ギルドのカウンターから離れ歩き出す。すると……。


『今回も建物を破壊したらしいぜ』


『いくらなんでも酷すぎる。あれじゃあどっちがモンスターなんだかわからないぜ』


『Sランク相当の実力があるくせに、どうして手加減を出来ないのかしら』


 その場にいた冒険者たちはラケシスを見るとひそひそと呟いた。


 ラケシスは周囲の視線を気にすることなく歩くと冒険者ギルドを出ようとする。

 今までもこうして疎まれてきたのだ。


 今回の依頼。ラケシスは依頼人の小屋を吹き飛ばし、ファイアドレイク2匹を討伐したことで完了した。


(しばらくは街に寄り着かない方がいいか)


 ラケシスは魔力がまだ安定していないのを感じた。

 今回、大がかりな魔法を2連続で放ったので普段よりも魔力の暴走が激しい。


 ラケシスは冒険者ギルドを出ると雑貨屋へと入り、数日分の食糧を買う事にした。

 乾いたパンにドライフルーツ。水に関しては魔法で出せばよいので問題はない。


 そう考えつつ次々に品物を見繕っていくのだが、その中に干し肉を発見する。

 牛の肉を乾燥させたそれは冒険者にとっては馴染みのある食糧だ。


 ふと、依頼人の顔が浮かんだ。小屋を吹き飛ばした直後に現れた依頼人は泣きそうな顔をしていた。


 ファイアドレイク2匹と引き換えに自分の商売道具が吹き飛ばされてしまったので当然だろう。


「他に方法が無かったのよ」


 あの場でファイアドレイクを見逃すという考えはなかった。

 そうなると相手が距離を詰めてくる前に倒す必要があった。自分の判断は決して間違ってはいない。


 ラケシスはそう自分を信じ込ませようとする。だが…………。


「あいつ、もう帰ったわよね?」


 爆風に吹き飛ばされたアースは火傷やスリ傷を負った。

 すぐに動きだして自分で立ち上がったのでそこまで重症ではないが、治療院へと向かっている。


 買い物を終えたラケシスは表に出ると治療院の方へ足を向ける。

 もしかするとアースがまだ治療を受けているかもしれないと思ったのだ。だが……。


 冒険者ギルドの連中の言葉が耳から離れない。

 ラケシスはまるで麻痺攻撃でも食らったかのように身体を動かすことができなくなった。


 アースが怯えた表情で自分をみる姿を想像してしまう。


 ラケシスは足を治療院から街の出口へと向けると……。


「しばらく経ってから帰った方がいいわね」


 そう言って1人街を出ていく。

 その姿はまるで何かに怯えているかのようだった……。

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