第23話 私1人でやるから
★
「それにしてもさあ、本当に良かったよねぇー」
ダンジョンを進みながらリーンは周囲を警戒する。
「何がだよ?」
その前を歩いているのはケイ。モンスターの突撃からリーンを守るために油断なく剣を構えていた。
「ラケちんだよ。私、絶対にアースきゅんがアパートから出ていくと思ってたもん」
出会い頭に大切にしていた畑を吹き飛ばされ、そのあともアパートを破壊して散々迷惑を掛けたのだ。
本人も相当怒っていたようだし、なぜあれで嫌いにならないのか不思議なレベルでの理不尽さを体験していた。
「あっ、ケイ、ストップ。そこに罠があるっぽい」
ふとリーンの視界の端に映った違和感。
「多分、横から矢が飛び出すタイプの罠だね。今すぐ解除するからまっててよ」
道具を取り出して罠の解除を試みる。
「話しながらでよく発見できるよな」
罠を発見したリーンにケイは感心する。
「そりゃ、このぐらいできなきゃAランク冒険者とは言えないでしょ?」
実際、些細な違和感程度なので大抵の人間は見過ごしてしまう。
だが、リーンは超一流のトレジャーハンターなのでどんな些細な痕跡も見逃さないのだ。
「ほい、解除終わり。毒矢が出てくる仕掛けだったから全部回収したよ。にしし、儲け」
壁を開けて中から毒矢を回収する。臨時収入にリーンは笑った。
「それにしてもラケシスから逃げ出さない……か」
「ん? 何か不安でもあるの?」
「いや、今日からあいつ別な街に行ってるだろ?」
「うん、そうだね?」
リーンは首を傾げる。ケイの意図が読めなかった。
「アースぐらい使えるやつならどこに行っても引っ張りだこになるよな?」
「そうだね、でも勘違いしないでよ? リーンが気に入ってるのはあの万能の家事能力じゃなくてアースきゅんの存在そのものだし」
そんな惚気のような言葉を口にするリーンを冷たい目で見ると……。
「今頃、隣町で就職活動してたりしてな?」
「!?」
ありえる可能性を提示されたリーンは毒矢を地面に落とすのだった。
★
「冒険者ギルドから来ました。ファイアドレイクを退治します」
依頼のため、アースとラケシスは依頼主のいる牧場を訪れていた。
「あ、あなたが……氷の魔女……ではないですよね?」
出てきた依頼人の男は怯えをみせるとアースに話しかけてきた。
「僕は単なる付き添いです。一応冒険者ギルドの臨時職員の肩書を持っていますのでご安心を」
実際はアパートの管理をしているだけなのだが、アースは相手が安心するように笑いかけた。
アースの笑顔が効いたのか、それともようやくファイアドレイクを退治できるからなのか依頼人はほっとすると……。
「ねぇ、それよりファイアドレイクはどこ?」
ラケシスが依頼人に問いかけた。
「や、やつはいつも夜中に入ってきては家畜を殺して食っております」
依頼人はラケシスに怯えているように見える。
「そ、それじゃあ夜まではやることないわけね。休ませてもらうわよ」
ラケシスはそういうと依頼人に家の中へと案内させるのだった。
「なるほど、ファイアドレイクにあった被害は牛よりも豚の方が多いと?」
「ええそうです。奴には柵も役に立ちません、現在は簡易修理をしていますが、このままでは牧場がぼろぼろになってしまいます」
「そうすると、家畜が逃げないように匂いによるバリケードを張って……。いや、それを利用してファイアドレイクを違う場所に誘導するのも……」
アースはアゴに手を当てると作戦を考えているのだが……。
「ねえ?」
「ん。なんですか? ラケシスさん」
ソファーで横になりながら本を読んでいたラケシスは起き上がるとアースを睨む。
「何勘違いをしているのか知らないけど、これは私の仕事なの。あんたは余計なこと考えないで」
「えっ……でも?」
いつにない強い言葉にアースは混乱する。
「良い? 今回の件はすべて私1人で処理をする。だから何かがあったとしてもそれはすべて私の責任よ。依頼人もわかったわね?」
取り付く島もない。ラケシスは有無を言わさぬ迫力で念押しをするのだった。
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