第20話 今日の食事はいかがでしたか?

 ラケシスはゆっくりと周囲を見渡し、アースが捕らわれていることを確認した。


「ラケちんどうしてここにっ!」


 先程言い争ったばかりなのだ。リーンはラケシスの返事をまった。


「ふんっ! いくら人数が増えたところで変わりはしないよっ! お前たち、その女は高く売れる。杖を取り上げて捕まえなっ!」


 カエル女は杖をちらつかせてアースを人質にとっている。


「へへへ、上玉じゃねえか」


「捕まえた後はたっぷり楽しんでやるぜ」


 盗賊たちの手がラケシスへと伸びていく。そんな動きをラケシスは冷めた目で見ていたかと思うと……。


「雷撃よ走れ」


「「アババババババッ」」


 雷が走り盗賊を打ち倒した。


「「「なっ!」」」


 ケイとリーンとカエル女が口を大きく開ける。


「ななな、なんてことするのさ! ラケちん」


 リーンが慌てる。


「そうだぞ! アースを人質に取られているんだぞ!」


 ケイも焦りを浮かべた。


「そっちの2人の言う通りだよ! この杖が見えないのかい?」


 カエル女は相変わらず障壁を張っている。


「見えてるわ。それがなに?」


 まるで気にした様子がないラケシスに、


「あんたが抵抗するならこのガキに取り返しのつかない傷を負わせてもいいんだよ」


「やれるものなら好きにしなさい」


「なっ!」


 現状を理解すれば大人しくなるかと思っていたカエル女だったが、ラケシスは予想外な言葉を発した。


「ラケちん、アースきゅんの身体が掛かっているんだよ!」


 相手は魔力障壁を張っている。それは素人目にも中々の硬度を持っていそうにみえた。

 いうことを聞かなければアースは間違いなく怪我をする。そうリーンが説き伏せようとするのだが……。


「私はこんな相手に屈するつもりはない」


「なんだって!?」


 あまりにも堂々と宣言するのでカエル女は一瞬杖をアースから放してしまう。


「疾風よっ!」


 次の瞬間、風の刃が飛びカエル女の魔力障壁を斬り裂く。


 そして、刃は勢いを落とすことなく――


「うああああああああああああああああああああああああ!!」


 ――カエル女の右腕を切り落とした。


「それに、あの程度の魔力障壁なんて破れないわけがないし。無傷で助けられるんだから文句はないわよね?」


 誰もが呆然としている中、ラケシスの言葉が響き渡るのだった。






「なるほど、それは災難じゃったな……」


 盗賊たちを兵士に引き渡しアパートに戻るとベーアが既に帰ってきていた。

 ベーアはリーンたちから事件の内容を聞いていたのだが……。


「それにしても流石はSランクにもっとも近いと噂されているだけはあるよな。あの状況でアースを助けられるなんて」


 常人には不可能。ケイやリーンの突破力でも足りない。それ程の魔力障壁だったのだが、ラケシスの前には無力だった。


「別にたまたま通りかかっただけよ」


 ラケシスはそんな皆のやり取りにつまらなそうに答えた。


「ふむ、たまたまか」


 ベーアは目を細めるとアゴを撫でる。


「なに?」


 リーンやケイの言葉は上手く受け流せるが、ベーアの言葉だけはなんとなく引っかかってしまう。ラケシスが睨むようにベーアを見ると……。


「いやなに。最近ラケシス殿は良くアパートにいると思ってだな。今までなら依頼を受けたらあっという間に違う街にいって、この街に戻ってきても適当な場所で過ごしていたようだが?」


 ベーアの鋭い言葉にラケシスは顔を逸らすと……。


「……関係ないわよ」


 ぼそりと呟いた。


「皆さんお待たせしました」


 そのタイミングでアースが食堂へと現れる。両手には食事を持っていて皆へと配膳をしていった。


「わーい、今日は一杯運動したからお腹ぺこぺこだよ」


「ああ、アースに何もなくて良かった。これが食べられなくなるからな」


「2人とも完全にアース殿に胃袋を掴まれておるな」


 3人は舌鼓をうちつつアースが用意した食事を美味しそうに食べる。

 そんな3人とは違い、ラケシスは黙々と食事を摂っている。


 やがて、全員が食事を終えると……。


「いやー、満足満足。アースきゅん。カーシーが飲みたいなー」


「はいはい。リーンさん。少々お待ちください」


 幸せそうに椅子にもたれかかっているリーンをみて笑うとアースは引っ込んでいく。

 そして皆にカーシーを振舞い……。


「あっ、ラケシスさん」


 立ち上がって部屋に戻ろうとしたラケシスをアースが追いかけてきた。


「なに?」


 普段通りの冷たい表情。アースを助けたのが夢だったのではないかと思えてくる。

 だが…………。


「今日の食事はいかがでしたか?」


 それでも助けてくれたのは間違いない。アースはこれまで以上に笑顔を浮かべるとラケシスに食事の評価を聞いた。すると…………。


「私、あまり濃い味付けは好きじゃないのよね」


 これまでは一言で済ませていたラケシスは不満を口にした。


「えっと……つまり?」


 予想外だったのかアースは戸惑うとラケシスとの会話を続ける。するとラケシスは、


「そもそも量も多い。リーンじゃないんだからそんなに食べられない。次からは量は少なめで味は薄く。わかった?」


 初めてのラケシスと意思の疎通をすることが出来たアース。しばらくぽかんとしていたのだが、表情を改めると……。


「わかりましたラケシスさん。次は好みに合わせてみせますよ」


 嬉しそうに返事をするのだった……。



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