第19話 僕をどうするつもりですか?

「最後にアースきゅんが目撃されたのがこの辺らしいよ」


 スラムの路地裏にリーンとケイは来ていた。

 あれから、アースの目迎情報を求めて街中を走り回り、ようやくそれらしき人物がスラムに続く裏路地へと入って行ったという情報を得た。


「しかし、なんでまたこんな場所に……」


 いろいろな点で優秀なアースだが荒事には向いていない。

 そんなアースがスラムに向かったことに疑問を浮かべていた。


「そんなのは後で考えればいいよ。今はアースきゅんを探さないと」


「そうだな、取り敢えず近くの奴を締め上げて話を聞くとするか」


 2人は焦りを浮かべると、近くのチンピラを尋問するのだった。










「……うっ。ここは……?」


 ぴちゃぴちゃと水が落ちる音がする。

 周囲は薄暗く、風を感じないことからここが建物の中だとアースは考える。


「ようやく目を覚ましたのかい」


 目の前にはポイズントードのように目をギョロつかせた太った女がいる。


「ここはどこなんでしょうか?」


 アースは腕を動かそうとするが椅子に座らされてきっちりと縄で拘束されていた。


「ここは私たちがアジトにしている倉庫だよ」


 周囲を良く見てみると木箱が高く積まれている。盗んだ物なのか、それなりに高額なアイテムも見えるので盗賊たちのアジトで間違いないようだ。


「どうしてそんな場所に? 僕から金目の物を抜いたら路地裏に放置しておけばよかったじゃないですか?」


 盗賊ならミスリルのブレスレットを手に入れた時点で満足していたはずなのだ、こうして連れてこられた意味がわからなかった。


「そんな勿体ないことするわけないだろ」


 蛙に似た女は避けそうになるぐらい口を広げて笑う。

 アースはその言葉にドキリとする。もしかすると今回の騒動は元々自分を狙っていたものではないかと推測したからだ。だが……。


「あんたみたいに幸せに育ったガキを汚すのが私の楽しみだからねぇ」


 どうやら違ったようだ、目の前のカエル女は単にアースをなぶるためだけに連れてきたようだった。


「ひっ!」


 先程現場にいた男の1人が悲鳴を上げる。

 それ程に目の前のカエル女の笑みは破壊力は高く、嫌悪感を沸き起こした。


「僕をどうするつもりですか?」


 アースは縛られながらも目の前のカエル女に自分の処遇について聞く。


「あんた可愛い顔をしているからね、私がたっぷり可愛がったあとはどこぞの奴隷商人にでも売り飛ばしてやるよ」


 そう言って手を伸ばしてくる。ブヨブヨした脂ぎった手が迫り、アースは嫌悪感を顔に浮かべると…………。


「アースきゅんっ! 助けにきたよっ!」


「リーンさんっ!」


 倉庫のドアが開き、息を切らせたリーンが立っていた。






 

「なんだい。お前らは!」


 突然現れたリーンとケイに盗賊たちは警戒心を強める。

 カエル女がアースの前にたち、その前には盗賊たちが立っていてアースまでの道を潰す。


「Aランク冒険者のリーンだよ」


「同じくAランク冒険者のケイだ。お前たちは盗賊ギルドの人間だな?」


 2人の名乗りに盗賊たちが動揺する。

 Aランク冒険者と言えば国に100人しかいない貴重な人材なのだ。そんな人間が2人も同時に現れたのだ普通に考えたら恐怖でしかない。


「リーンやるぞ。アースを助けるんだ」


 ケイは剣を抜くと盗賊たちを睨みつける。


「わかったよ。アースきゅんを可愛がってくれたお礼をしちゃうもんね」


 リーンも短剣を構えると。


「お、お前たちっ! やっちまいなっ!」


 カエル女の命令で盗賊たちも剣を抜くと戦いが始まった。






「す、凄い…………」


 戦闘が始まってからしばらく。アースはケイとリーンの戦い方をみていた。

 その場には20を超す盗賊がいて、短剣で攻撃をしているのだが、だれ1人として攻撃をあてることができない。


「へへーん、あたらないよーだ!」


 それどころか、最小限の動きで攻撃を避けると瞬く間に接近しては盗賊を鮮やかに倒していく。リーンもケイもまるで本気など出していない。やろうと思えばその場の盗賊を皆殺しにすることもできるのだが、気絶させるだけにとどめていた。


「これがAランク冒険者の力なのか」


 アースはこれまでの人生でここまで強い人間を見たことがない。

 まるで踊るように動き回り、的確に急所を攻撃するリーン。


 複数の盗賊相手に力比べを行い、なんなく吹き飛ばすケイ。


 普段パーティーを組んでいるせいか、その連携は完璧で……。


「ラスト1人ー」


 その場にいた盗賊たちはものの10分ほどで全滅させられてしまった。


「さて、あとはボスだけだな?」


 ケイがカエル女を睨みつける。


「さっさと片付けてアースきゅんに御飯つくってもらわないとね」


 リーンは短剣を回転させて握りなおすと嗜虐的な笑みを浮かべた。


「くっ、来るんじゃないよっ!」


「アースきゅんっ!?」


 だが、カエル女は杖を取り出すとアースの首筋にあてる。


「動くんじゃないよ。私だってそこそこの魔道士さね。例えAランク冒険者相手でもすぐに突破できない魔力障壁を張ることができる。破られるまでにこのガキに取り返しのつかない怪我をさせるぐらいはできるんだよっ!」


 そう言うとカエル女の周りに透明な膜のようなものができる。

 高い魔力を持つ魔道士は詠唱を妨害されないように魔力障壁を展開して魔法を使うことができる。


 リーンやケイの力をもってすれば破ることができるのだが、手持ちの武器では少々てこずる。それではアースが怪我をさせられてしまう。


「くっ……」


 それがわかったのか、ケイは悔しそうにうめく。


「ふっふっふ、分かればいいんだよ。そら、もっと後ろに下がるんだよっ! 妙な真似をしたらこのガキの目玉をくりぬくよっ!」


「アースきゅんに何かしたら殺してやるからっ!」


 リーンは今までアースが見たことのないような顔をするとカエル女を睨みつけた。


「はっはっは! いい気味だねっ! お前たちいつまでも寝てるんじゃない! とっとと起きてそいつらもふんじばってしまいなっ!」


 カエル女の声で意識を取り戻した盗賊たちが起き上がりリーンたちを拘束しようとする…………。


 ――ドガアッ――


 次の瞬間、ドアが吹き飛びカエル女の顔をかすめた。ドアは壁に当たると砕け散り木の破片が地面へと転がる。


「ななななっ!」


 杖を突きだしながら入ってきたのは冷徹な顔をした魔道士。魔法の明りに照らされ輝く金髪に思わず見惚れてしまう美貌。


「ラケちんっ!?」


 ラケシスがその場に現れた。

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