第16話 あなた何なんですか?
「おおおおお、とうとうやったぞ……種を植えてから交配を繰り返して数週間。あの幻の虹薔薇が咲いた!!」
アースは感激すると数本咲いている薔薇の内1本を摘んだ。
「うん、この芳しき香りはこの世界で10本の指に入るね」
香水にしてもハーブにしても、料理に使っても構わない。
虹薔薇は幻の薔薇と言われていて、育成に成功した人間はこれまでに1人たりとも存在しない。
「これがあれば今まで作れなかった製薬ポーションも作ることができる」
瀕死の状態でも完全回復できるポーションの材料にもなっている。
アースにはその製造方法が完全に見えていた。
「とりあえずこれは花瓶に移して部屋に飾るとして残りは増えてきたら採集しよう……」
今後作りたいアイテムのことを考えてアースがその場を離れると…………。
――ドッカアアアアーーーーーン!!!――
「はっ?」
目の前で爆発が起こる。その爆発はアースが大切に育てているハーブ畑をなぎ倒し、その爆発の中心には…………。
「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
アースの絶叫が鳴り響く。爆発が収まり煙が晴れるとそこにはクレーターが出来ていたのだ。当然のようにそこで育てていた虹薔薇は全滅していた。
「ど、どうしてこんなことに……大切に育ててきたのに……」
地面に崩れ落ちて泣くアース。そんな彼の前に1人の女が立っていた。
目の前に誰かが立ったことで顔を上げたアース。
そこにいたのはこの世の物とは思えない程美しい女性だった。ドレスに身を包み、髪は太陽の光を浴びて輝いている。女神と呼んでも遜色のない程の美貌と完璧なプロポーションに、こんな時だというのにアースは見惚れてしまう。
だが、その女神は見る者を凍り付かせるような目でこういった。
「あんた誰よ?」
「にゃははは、それは災難だったねぇ」
アパートに戻るとアースが真っ白になった状態で食堂のテーブルに突っ伏していた。
リーンは慌ててアースを起こして事情を聞いたところ、通りすがりの何者かに大切に育てていた植物を破壊されたと言ったのだ。
「本当に笑いごとじゃないですよ。お陰でせっかく掃除したアパートの壁も泥がついてるし、畑だって作り直さなきゃいけないんですからねっ!」
アースが正気を取り戻した時、問題の女の姿は既にどこにもなかった。
「まったく、あり得ない。今度あったら流石の僕も許さないですよ! なんなんですかあの人は……」
珍しく怒りをあらわすアース。
「あー、えっとねアースきゅん、多分その魔道士って…………」
リーンが苦笑いをしながら話をしようとするのだが……。
「確かに見た目だけなら女神かと思いましたよ、噂の聖女に匹敵する美しさかもしれません。だけどあんな理不尽な行動がゆるされてたまるもんですか! 何が何でも探し出してあいつを……」
その時食堂のドアが開いた。
「何よ、うるさいわね……」
欠伸をしながら入ってきたのは女性だった。
「あっ、ラケちん。久しぶりだにゃー」
「リーン。あなた相変わらずみたいね」
アースは固まったまま口をパクパクとさせる。
「そうだラケちん、紹介するね。一ヶ月前からアパートの管理人をしてもらってるアースきゅんだよ!」
「ふーん、このひ弱そうなのがそうなの? まともに仕事とかできるのかしら?」
「やだなぁ、アースきゅんは優秀だよ。荒れ果てた庭からアパートの補修に掃除、さらに料理まで完璧なんだから。リーンはアースきゅんの虜なんだよ。ねー?」
普段のアースであるならいつも通りにリーンを塩対応で躱していたところだが、今はその余裕がない。
「あれ? アースきゅん?」
そんなアースを不思議に思ったのか、リーンはアースの前で手をひらひらしてみせる。
「り、リーンさん。その人知り合いなんですか?」
アースは震える手で目の前の女を指差す。すると……。
「うん、彼女はラケシス。このアパートに住んでいる最後の1人だよ」
「嘘……でしょう?」
リーンの言葉にアースは絶望的な表情を浮かべるのだった。
「ふむ。ラケシス殿、久しぶりであるな」
「師範も元気そうね」
夕食になり、アパートの全員が食堂に集まってくる。
ベーアの挨拶にラケシスは特に視線を向けることなく答えた。
「それにしても、また今回は長い冒険だったな。どこまで行ってきたんだ?」
ケイが質問をすると。
「2つ隣の国までちょっとモンスター退治の依頼によ」
ラケシスの噂は他国まで届いている。今回、どうしても倒すのに難儀をするモンスターが現れたという事でその依頼の為に出かけていたのだ。
「相変わらず凄い威力の魔法を使ったんだろ? モンスター共も災難だったな」
ラケシスの放つ魔法は威力が高くコントロールが難しい。
なので、彼女には一緒に行動する仲間がいない。最悪、周囲を巻き込んでしまうからだ。
ラケシスは溜息を吐くと……。
「使っていた杖が壊れたからここに寄っただけだから。補充したらすぐに出て行くわ」
「えー、ラケちん。せめて少しは休みなよ。ずっとそんなんじゃ心が疲れちゃうよー」
ラケシスの張り詰めた空気を感じ取ったのかリーンが抱き着いた。そんなリーンを見たラケシスは諦めると……。
「わ、わかったわよ」
そう返事をするのだった。
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