第15話 平和な日々ですね
「ふぅ……良い天気だな」
アースが空を見上げるとぽかぽかとした陽の光が降り注ぐ。
「暖かいし、絶好の洗濯日和だね」
風が吹きアースの頬を優しくなでる。寒すぎず暑すぎず。
草木の匂いに混じって木が燃える匂いが漂ってくる。
「この匂いはチリツリーのチップを使った燻製かな?」
アースは鼻をひくつかせると匂いの正体の見当をつける。今の時期に潰した家畜の肉を燻製にして保存しているのだろう。
「さて、洗濯物でも干すか」
アースの目の前には大量の洗濯物が積みあがっている。
アパートに住み始めてから1ヶ月以上が過ぎた。アース自身は手持ちの服が少ない事もあってこまめに洗っていたのだが、ケイやリーンにベーアが洗濯をしているのを見たことがことがなかった。
それで、夕食の時に聞いてみたところ……。
「全員が溜め込んでいたからな……」
各自の部屋には洗濯物が積みあがっていたのだ。
「更にシーツも取り替えてなかったし」
質の良い睡眠には清潔な環境が必須だ。
3人が冒険者として忙しいのはわかるがそれで身体を壊してしまっては元も子もない。
そんなわけで、アースは3人の分の洗濯物を引き受けてこうして干しているのだ。
「しかし酷い汚れだったな……」
シーツを洗濯したところ、黒ずんだ汚れがでるわでるわ。
魔導具のお蔭で大量の水を確保できたから洗い流せたが、普通の家庭で洗うつもりなら小川に行くしかないところだ。
「でもまあ、洗剤が良かったのかもな」
アースの【調合マスター】のスキルにより作られた洗剤は布の汚れを綺麗に分解してくれる。その上、リラックス効果のあるハーブで匂い付けをしているので、これで洗ったシーツで寝れば安眠も期待できるのだ。
アースは次々と洗濯物を干していくのだが…………。
「これは……ちょっとね……」
男連中の服とは別に洗濯をしたリーンの衣装をアースは手に取った。
普通の服ならば問題はない。同じように洗って干すだけだからだ。
だが、リーンはこともあろうに下着までもアースに預けていた。
「ったく。あの人は……もっと自分が女であることを意識してくれないかな?」
ことあるごとにスキンシップを取ってくるリーンにアースは困惑していた。
「とりあえず、なるべく見ないようにしながら干して、次からは断ろう」
流石にアースも年頃の男だ。女性の下着を洗濯して平静でいられるはずもない。
「さて、これで干し終わりっと」
全ての洗濯物を干し終えたアースは楽しそうに自分の仕事の成果を見た。
アースの目が細まる。のどかな風が吹きアースの頬を優しくなでると……。
「ここは本当にいいところだな」
素の自分を受け入れてくれる人たちがいる。彼らの笑顔が頭に浮かぶと……。
「ずっとこうしていられたら幸せだろうな……」
そう呟くのだった。
★
「炎よ、蹴散らしなさい」
灼熱の炎が術者を中心に螺旋状に広がる。
『GAAAAAAAAAAAAAA』
その周辺にいたモンスターたちが一斉に鳴き声を上げて燃え上がった。
「ふん、なによこれ。依頼内容と全然違うじゃない」
ドレスに身を包み魔石を宿した杖を持つ。杖を持つのは魔道士の証だ。
その魔道士の女のギラついた瞳に周りを囲んでいたモンスターたちは気圧されて動くことができない。
「また私に厄介な仕事を押し付けて、戻ったら文句を言う必要がありそうね」
怯えるモンスター達につまらないものを見るような視線を向ける。だが、次の瞬間。それを隙とみてとったのか上空より巨大な翼を生やしたモンスターが襲い掛かってきた。
完全な不意打ちの上、相手はドレイク。ドラゴンにこそおよばないものその下位種だ。生半可な魔法では止めることはできない。
「馬鹿らしい……爆ぜなさい」
杖を振るとキラキラした光が放たれドレイクへと飛んでいく。そしてその光はドレイクに触れると…………。
――ドッカグォォォーーーーン――
大きな爆発を引き起こした。その威力はすさまじく、周囲で見ていたモンスター達も巻き込まれ消滅、あるいは吹き飛んでいく。
爆発が収まるとそこには魔力を使って防護シールドを張った魔道士の女が一人立っていた。
シールドを解除すると杖が音を立てて崩れた。
「あーもう。また壊れた……これだから安物は嫌なのよね……」
女は杖を投げ捨てると……。
「スペアは確かあったはずよね。久々に帰るしかないわね」
周囲の地形が変わり、モンスター達は恐れて逃げうせる。そんな中を女は来た道を引き返していった。
その女の正体は、Sランク冒険者に最も近いと言われるAランク冒険者。その暴力的な魔法の威力と冷酷無比な性格から冒険者たちの間でこう呼ばれていた――
【魔王ラケシス】
――と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます