第6話 道具の調子はどうですか?
「すいません、こっちの野菜のこれとこれを3つずつお願いします」
「あいよアース。いつもありがとうね」
「いえいえ、こちらこそいつも直に野菜を売っていただきありがとうございます」
アパート近くの農家に立ち寄ったアースはおばちゃんと仲良く会話をする。
ここは街の郊外で、アースが住むアパートの周辺に点々と家が建っている。
牧場を経営していたり、農業をやっていたり、ここらに住む人間は食糧を生産するのに広い場所が必要なので郊外に住んでいるのだ。
本来なら街から離れているので買い物などが不便なのだが、アースは近隣の人たちと仲良くなると直接食糧を買い付けることができるようになっていた。
直に取引するので安く買うことができる。そしてアースには生産スキルを持つ者にとって垂涎のスキルである【鑑定マスター】のスキルがあるので、どの野菜が一番新鮮で味が良いかはっきりと見えていた。
「はいよ、これはおまけだ」
「わぁ、ありがとうございます」
野菜を1つずつおまけに入れてくれたバスケットを受け取ると……。
「そう言えばあんたが仕入れてきてくれた害虫駆除剤だけど調子がいいみたいだ。おかげさまで収穫の手間が大分減ったよ」
「それは良かった。うちのアパートに来る行商人が色々面白いアイテムを持ってきていて試しに買ったんですよ。良かったらまた持ってきましょうか?」
先日、農家の人から害虫に野菜を齧られてしまい困っているとアースは愚痴を聞かされた。
そこでアースはアパートに帰ると、害虫が嫌っている葉っぱから駆除剤を作りだした。
そして、ここの農家に試供品として渡してみたのだ。
効果は抜群のようで、使用した野菜には害虫に食い荒らされた跡がないので不良品の数が減り、市場に出荷できる数が増えた。
「是非頼むよ。お金は払うから。後、近くの農家にも話をしたら自分たちも使ってみたいってさ」
「わかりました、それじゃあ今度用意しておきますね」
アースは注文の数を確認するとアパートへと引き上げていこうとする。
「にしても、あんたあのアパートで酷い目にあっていないかい?」
「別に特にそんなことはありませんけど?」
近隣をまわってみて知ったのだが、あのアパートにはこの国の冒険者きっての問題人物ばかりが集められているらしい。
実力は随一だが、何かしら問題を起こすので街中に住ませるわけにいかずあそこに隔離されているらしい。
そんな訳で、そこの管理人に就任した当初はアースも近隣の住人から同じような目で見られていたのだ。
「どうしても耐えられないことがあったら家を頼るんだよ」
おばちゃんに肩を掴まれ真剣な顔をされたので。
「ありがとうございます。でも皆さん本当にいい人ばかりなんですよ」
アースはそうフォローをするのだった。
「すいません、ミルクとバターとチーズをください」
次に訪れたのは牧場だ。
こちらもアパートから近くにあり、街に行くよりも手っ取り早く食糧を仕入れることができる。
「おっ、アースか。ちょうど出来たので持って行ってくれ」
小屋の奥からおじさんが顔を出すとアースに笑い掛けた。
「ありがとうございます。ちょっと見させてくださいね」
中に入って行くと、アースは作られたバターを見た。
「うーん、まだムラがありますね。分離しきれていないようです」
バターの一部が白かった。
「これでも十分今までの物より品質は上がってるんだがなぁ」
真剣な表情をするアースにおじさんは頬をかく。
「ギアの精密さが足りていないのかもしれませんね、一度部品を削りなおしますのでしばらくお待ちください」
アースは遠心分離機を解体すると稼働するパーツの勘合部分を凝視した。
「ほら、このパーツに傷がありますよね。本来の目的であればここの咬み合わせがしっかりするはずなんで傷なんてつかないんですよ。だから逆側のパーツの当たっている部分をペーパーでこすって…………これでどうかな?」
再び機械を組み上げ直した。
おじさんがハンドルを握って回転させると……。
「おお、今までよりもなめらかに回るな。なるほど、確かに前は何かに当たっていてこんなに回転スピードが無かったわけだ」
どうやら調整が上手くいったようでおじさんは満足そうにしていた。
「それじゃあ、ミルクとバターをチーズ貰っていきますね」
アースは自分が組み上げた遠心分離機が作動しているのに満足すると帰ろうとするのだが……。
「ちょっと待ちな」
「はい?」
「今日締め落とした牛がいるんだ。肉を分けてやるよ」
そういうと肉のブロックを持ってきてくれた。
「これは……つやといい、脂の細かさといい最上級じゃないですか」
「それをわかってくれると嬉しいねぇ。これは機械を貸してくれてるお礼だ。持って行ってくれ」
毎朝パンを焼くために新鮮なバターが必要なアースだったが、ミルクを受け取って帰ってから作業していては間に合わない。
そこで、この牧場にお願いして機械を貸し出すレンタル代としてミルクとバターにチーズを提供してもらう約束を取り付けた。
アースにしてみればこのぐらいの装置の設計図は頭にあるし、【大工マスター】のスキルで簡単に作ることができる。
一度貸し出してしまえば自分で作業をする時間をとられないのでお互いにとってメリットがあるのだった。
アパートに戻るとアースは食材をしまうと……。
「とりあえず害虫駆除液と遠心分離機を作って売りに行くとするかな……」
のちに、アースが作ったこの2つの道具のお蔭で生産性が向上し、ここらの農家と牧場は大いに潤うことになるのだった。
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