第5話 ポーションを買ってきましたよ

 管理人になってから数日が経過した。


「えーと、ここが錬金術の店か」


 アースはリーンのお願いでポーションを買いに店を訪れていた。


「おじゃましまーす」


 店内に入る。薄暗い中、独特の臭いが漂ってくる。

 錬金術の、特に調合関連の材料は光を当てると品質が劣化する。なので、店内には最小限の明りしか存在していない。


「えーと、リーンさんようにポーションが4つとケイさんはハイポーションを5つだっけ?」


 棚を見ると様々な効果のポーションが置かれている。アースはその中から目的のポーションを探した。


「あった。これ……か?」


 棚に瓶に詰められたポーションとハイポーションが陳列されており、それぞれの価格は1本につき500リラと2000リラ。合計金額にすると12000リラになる。


 ポーションとは怪我を回復させる効果を持つ薬のことで、冒険者はモンスターとの戦闘で怪我をすることが多い。

 なので、冒険に出る際には必ずポーションを携帯するようになっていた。


 だが、ポーションを作れる人間にも限りがある。【製薬】のスキルを持つ者が可能なのだが、1人の人間が1日に作れるポーションの数はどうしたって限られている。


 最近はフィールドのモンスターが活性化して、駆け出しの冒険者が怪我をしまくっていたので在庫が不足しがちだった。


 そんな訳で、入荷しているかわからない店に赴くよりは冒険をして稼ぎたかったケイとリーンはアースにお使いをお願いしたのだ。


「ポーションならそこにあるだけだよ?」


 店番をしていた老婆がアースに向かって声を掛ける。

 棚に残っているのはポーションが2本にハイポーションが3本。頼まれた数には足りない。


(でも問題はその他にもある。これあまり品質よくないよな?)


 アースの見立てではこのポーションを作った人間はあまり腕が良くないようだ。

 これでは大事な命を預けるには心もとない。


(どうしようか……?)


 アースは口元に手を当て考えると。


「すいません。こっちのポーションの材料と空き瓶を10本売ってもらえますか?」


「はいよ。合計で2500リラだね」


「あとはこっちの製薬用の鍋とすり鉢もお願いします」


「なんだいあんた……自分で製薬するつもりかい?」


「俺は作れないんですけど、作れる人に心当たりがあるので」


 アースは老婆の問いかけを躱すと笑って見せた。


「……全部で5000リラになるよ。その心当たりに伝えておくれ。ポーションを作れたらうちに持ってくるようにって」


「わかりました。その際には持ってきますね」


 アースは材料を受け取ると支払いを済ませるのだった。






「さて、2人が戻ってくる前に始めるとするか」


 あれからアパートに戻ったアースは製薬の道具をテーブルに並べた。


「まずは普通のポーションを作ろうかな」


 製薬用の鍋に水を張る。例によって高級魔導具から出した水なので不純物が少ない。

 ポーションの回復力を高めるためには水の品質もなかなか重要だったりする。

 アースは水を火にかけている間に次の準備に移る。


 すり鉢にポーションの材料となるレッドハーブを入れて磨り潰す。なるべく多くの成分を抽出できるように丁寧にだ。


 そしてうまく潰したところで沸騰している鍋へとハーブを投入して混ぜる。

 すると水の色が赤く変わった。


 ポーションの回復量が決定されるのはこのタイミング。

 製薬スキルを持つ人間が混ぜることで魔力を感じ取るのかポーションに回復効果が与えられる。


「丁寧に、心を込めて混ぜるのが何よりのコツなんだよな」


 ケイやリーンの怪我が治るようにと心を込めながらアースは鍋を混ぜ続ける。

 1時間ほども混ぜていただろうか?


「よし、大分煮詰まってきたしあとはこれを布越しして……」


 使い終わったハーブを除去するために布越しをしたアースは出来上がったポーションを瓶へと詰めていく。丁度5本分のポーションが完成すると……。


「あとは冷ませば完成だな」


 見る者が見れば先程売っていたポーションの数倍の回復量があることがわかる。


「さーて。次はハイポーションを作るとするか」


 一度鍋を洗ったアースはハイポーションを作る準備を始めた。

 作業としては先程とそれ程変わらない。だが、混ぜる時に体内の魔力を持っていかれるのでそれがハイポーションともなれば疲労は免れない。


 普通の製薬スキルを持つ錬金術士は1日に10本もポーションを作れば翌日は動けないのだが、アースは【製薬マスター】なので、ポーションを作った際の負担をかなり抑えることができるので、まだまだ元気だ。


 このスキルの効果はポーションの回復量を底上げしてくれるので、同じポーションで同じ力量の人間が作った場合、回復量に差がでるのだ。


 アースの場合は腕前は最上級なので、出来上がるポーションは同じマスタークラスの錬金術士の品よりもはるかに優れている。

 普通のポーションでもハイポーションクラスの回復量があるので、軽い怪我の治療に使った場合、明らかにオーバースペックだろう。


「ケイさんとリーンさん喜んでくれるといいな」


 アースは出来上がったポーションを眺めるとそう呟くのだった。





「おい、アース。なんかお前が買ってきたポーション効果が高いみたいだぞ」


 何日かが過ぎ、冒険を終えて帰宅したケイがアースに話しかけた。


「そうなんですか? たまたま行商に来た錬金術士が売ってくれたんですけど良かったです」


 決して自分が作ったというつもりはないアースは行商人が売りに来たということにしていた。


「本当に。冒険者仲間が結構深い傷を負ったから使ってみたらさ、傷が一瞬で完治したんだよ。こんなに凄いポーション初めてだよ」


 リーンが大げさなリアクションを取った。


「また売りに来るようなことも言ってましたよ」


 アースは内心では2人の役に立てたことを喜んでいた。


「もし売りに来たら出来るだけ多く買っておいてくれないか? このポーションなら俺たちも命を預けられるってもんだからな」


 ケイの言葉は製薬をする者にとっては最上級の誉め言葉だ。


「わかりました。次も張り切って頑張ります」


「アースきゅんが張り切っても仕方ないでしょうがっ!」


 リーンからの突込みが入る。その言葉にアースは笑いかけると……。


「ええ、張り切って買い占めてみせますから」


 嬉しそうに答えるのだった。

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