第3話 少し綺麗にしておきましたよ
「掃除は後でするとして、とりあえずは壊れている場所の修理かな?」
台所に立つとアースは仕事を進める手順について考え始めた。
「まずはこの台所周りだけど……ちゃんと使えるのか?」
試しにアースは火と水を出す魔導具を点検してみる。
「予想通りというべきか反応がない」
古いアパートだけあって設備にもガタが来ているようだ。
「水回りは生活の基本だからな。ちょっと弄っておくか」
そう言うとアースは魔導具を取り外すと【付与マスター】のスキルを発動する。
「随分古いタイプだけどここを書き換えて出力を細かく調整できるようにして、ついでに魔力伝導率も良くしておくか」
ものの5分ほどで調整を終えたアースは再び魔導具をセットしなおすと……。
――ジャーーー――
水の魔導具からは生活で使うには勿体ない程の綺麗な水が。火の魔導具の火力を調節すると青い火が立ちのぼる。
ボロアパートどころか高級レストランでも滅多に導入することができない高品質の魔導具へと作り変えられた。
「ま、こんなところかね?」
ひとまず動作に問題がないことを確認したアースは満足すると次の現場へと向かった。
「洗い場なのに苔がびっしりで使えないとか……」
アースが次に目を付けたのは洗い場だ。このボロアパートでどこが一番汚れているかというとここに違いない。
石造りの床は苔がビッシリと生えており、こんな場所で洗濯をしようものなら、洗っている傍から苔がついて服がカビてしまうだろう。
アースはひとまずブラシでこすってみるのだが……。
「うーんこれは、相当しつこいな」
床石の表面は苔が落ちるが、苔が石にこびりついていて全く剥がれる気配がない。
「普通に掃除したらまず短時間では終わらないな、さてどうするか?」
アースは腕を組んで考える。頼まれた仕事はアパートの掃除だ。すぐに結果を出したいのでここだけに時間を割くわけにはいかない。
「ようはここは苔を剥がすことが出来れば良いわけだ」
アースは一旦洗い場を出ると管理人室に入る。そこには備え付けのポーションなどの薬品が置いてあった。
「これとこれと……あとこっちもだな」
いくつかの薬品を手にしたアースは【製薬マスター】のスキルを発動する。
すると、薬品が混ざり合い新たな薬品が出来上がった。
「これで簡単に掃除ができるな」
洗剤を水に溶かしその水にブラシを突込み石床をこする。
するとみるみる間に苔が落ち綺麗な石床が表われた。
「これならあっという間に終わるな」
アースは瞬く間に苔をはがし終えると桶に貯めていた水でそれを流した。
「隣は……結構広い浴槽なんだな。こっちも使ってないみたいだけど、後で風呂に入るつもりならやっておいて損はないか」
色々掃除をすることで身体が汚れるに違いない。アースは同じ要領で浴槽の隅々まで綺麗にした。
「あとは玄関だな……」
階段の手すりの塗装が剥がれていたり、柱が欠けていたり。このボロアパートを物理的に破壊しそうなやばい状態になっている。
「とりあえず欠けている部分は他の材料を使って埋めて、あとは床に散らばっているゴミを外に出して……。やることが多いけど頑張ってみるか」
アースは【建築マスター】のスキルを使うと欠けた柱を修復。
塗装が剥げた場所も塗りなおし、床に散らばっている物を回収しておいた。
「さてさて、ケイさんとリーンさんが戻るまでに終わらせないといけないから大変だぞ」
アースは鼻歌を歌いながらボロアパートを直していくのだった。
「あーっ疲れたぁー」
夕方になり、ケイとリーンはアパートへ帰宅していた。
「今日の敵はケイにばかり集中したからねー」
「リーンが遅刻しなかったらもっと早く動けたんだぞ?」
「ごめんごめん。まさかあそこで管理人さんが来るなんて思わなかったからねー」
「アースとか言ったっけ? あいつまさか逃げてたりしないだろうか?」
アパートのあまりの荒れっぷりに絶望して逃亡しているのではないかとケイは考えた。
「まあ、逃げてるかもにゃ。アースきゅん根が真面目そうだったし」
出かける前に接したアースの印象をリーンは思い浮かべる。
「少しぐらい綺麗になってりゃ儲けものなんだが、何せ元々ボロアパートだからな。そう簡単には…………」
「わぷっ! ちょっとケイ! 急に立ち止まらないでよ」
ケイが急に立ち止まった為、背中に突っ込んでしまったリーンは鼻を押さえながら抗議する。だが、ケイはミミックに騙されたかのような表情をすると……。
「おい、リーン?」
「なにさ!」
「ここが俺達のアパートであってるんだよな?」
「もうボケたの? こんな郊外にあるのはリーンたちのアパートぐらいでしょうが」
元々このアパートは冒険者ギルドで高ランクの、問題を起こす人間を隔りした住居だ。そのせいで、周囲に被害が及ばない場所に建てられている。
「だったらこの新築の建物は何なんだ?」
ケイはリーンにも良く見えるように一歩横にずれる。するとリーンの視界にも先程までケイが見ていたのと同じ光景が広がった。
「えっ? これ……なに?」
リーンとケイはお互いに目を合わせるとそれが幻でないと判断し頷いた。
2人の前には少し綺麗どころではないアパートが建っているのだった。
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