聖なる夜のまこと

 ヤッホーみんな。

 俺はまこと。よろしくね!


 今日は、お巡りさんのコスプレをして街へ繰り出そうと思うんだ。


 えっ?なんでクリスマスにコスプレ?ハロウィンと勘違いしてるんじゃないの?って?


 大丈夫!勘違いなんかしてないよ。


 俺だって、去年のクリスマスは、でっかいツリーを用意して、ケーキとターキーで祝ったんだ。

 でもさ、いい加減、ツリーとケーキとターキーには飽きちゃったんだよ。

 だから、今年はコスプレ!

 【今夜は会えない】って彼女に電話したら、引くほどブチギレられたけど、でも、そんなの気にしてたら楽しい人生は送れない。

 なんたって、ただコスプレしようっていうんじゃないからね。

 クリスマスっていったら、家族団欒かぞくだんらんの温かい幸せなひと時や、恋人達が愛を語り合う大切な時間だろう?

 もし、街に悪党がのさばってたら、みんなのハッピーがぶち壊しだ。

 

 弱きを助け強きをくじく。


 聖なる夜に現れた、ハッピーを愛し、ハッピーに愛され、ハッピーを守る、正義の使者。


 聖闘士警察官セイントポリスメンまこと。いきまぁ〜す!


 この日の為にセグウェイを買ったんだ。

 セグウェイって意外とスピード出るんだね!

 令和の時代の警察官ポリスメンの乗り物は白い自転車じゃなくて、真紅しんくのセグウェイ。

 やっぱり、正義のヒーローは格好良くなくちゃね。

 もちろん、拳銃だとか、警棒だとか、そんな野蛮でダサイ道具は持たないよ。

 ハッピーな世界をつくるのに、暴力なんて似合わないからね。

 俺のこの巧みな話術で、どんな悪党も改心させてみせる!


 悪党だって人間だ。


 しっかりと話し合えば、きっと分かり合えるはずなんだ。


 罪を憎んで人を憎まず。


 俺は絶対にハッピーな世界をつくってみせる!


 どうも、皆さん。

 俺が、聖闘士警察官セイントポリスメンまことでぇ〜す。

 以後お見知り置きを。


 それにしても、この街には全然悪党がうろついてないなぁ。

 良い事なんだけど、ヴィランがいなかったらヒーローの存在意義が無くなってしまう。

 こんな事なら、貯金を下ろしてLAにでも乗り込むんだったかな?


 さっそくアイデンティティが揺らぎ始めた聖闘士警察官セイントポリスメンまこと、どうする?


 そんな事を考えながら、自転車レーンをセグウェイで爆走していると、反対車線の歩道を、ニット帽を鼻頭が隠れる程目深に被った身長190cmオーバーの男が、女の子走りで全力疾走ぜんりょくしっそうしているのが目に入った。躍動感やくどうかんがハンパじゃない。


 絵に描いた様な教科書通りの不審者登場!


 よっしゃー!!

 待ってろよ悪党!!

 いざっ、職務質問へ、

 Let's Hee We Go!!


 まさか、あんな怪物がこの街にひそんでいたなんて。

 あの様子からして、ヤバイ薬をやっているのは間違いない。

 周りの人達に被害が出ない様に、最新の注意が必要だ。

 絶対に犯人を刺激しちゃいけない。


 でも大丈夫。聖闘士警察官セイントポリスメンまことは、心理学にも精通している細やかな捜査が売りなんだ。


 俺は、奴の走る歩道にセグウェイで乗り上げると、ショルダーバッグから拡声器を取りだした。


 『ちょっとぉ〜、そこのお兄さぁ〜ん。あなただよ、あなた。そこのニット帽を深く被って、全力疾走しているあなた。ちょっと、お話し聞かせて欲しいんだけど』

 男はこちらを振り返ると、ヒィッと小型犬の鳴き声の様な甲高い音を発して、走る速度を上げた。

 『ちょっと待ってよぉ〜、お兄さぁ〜ん。大丈夫。ちょっと話を聞くだけだから。この警察官ポリスメンに5分だけ時間ちょうだい』

 男は、ごめんなさい。勘弁して下さい。ちゃんと返しますから。

 と言って、更に走る速度を加速させた。


 これ完全にヤバイ薬やっちゃってるな。


 聖闘士警察官セイントポリスメンまこと。

 自分でも怖いくらいだが、その悪党を見つけ出す嗅覚きゅうかくは本物。研ぎ澄まされちゃってるみたいだ。

 セグウェイの速度を上げて、男の強制逮捕に踏み切ろうとしたその時、男のダッフルコートの右のポケットから、まるで、万国旗ばんこくきを使った手品の様に、お札らしき物が次々と飛び出した。

 どうやら、男は気がついていない様子である。

 相変わらずの女の子走りで、全力疾走している。

 俺は、ショルダーバッグからホイッスルを取り出してそれをピィーッと吹くと、

 『はい、皆さん。そのお札に触らないで下さいねぇ。それ、汚いお金ですから。そのお金は、この警察官ポリスメンが責任を持って回収致します!』


 お札は全部で30枚。全て万札であった。

 薬を売って手に入れたのか。詐欺で御老人から奪ったのか。残念ながら、俺には確かめる術がない。


 よしっ。取り敢えず、あしなが育英会に募金するか。


 30万円をショルダーバッグにしまうと、あしなが警察官ポリスメンは、真紅のセグウェイのアクセルを全開にして、クリスマスに色めき立つ街をあとにした。


 Hee We Go♪




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