聖なる夜のあい

 今日は聖なる日、クリスマス。

 街はイルミネーションと、幸せそうな人々の笑顔で、ピッカピカに輝いている。

 

 ここに私の居場所はない。


 何故だろう?

 

 人と比べたって仕方がないのに、人と比べたくなんかないのに。


 それでも、私は、街を行き交う彼・彼女達の幸せを、うらやましいと思わずにはいられないのである。

 クリスマスくらい愛する家族と笑顔で過ごしたいと思ってしまう私は、やっぱり我儘わがままな人間なのでしょうか。

 別に、高級料理もハイブランドもいらないから。

 ただ、愛する人達の笑顔が欲しい。

 私の愛した人は、この世界の上で生きていくには、あまりにも優し過ぎるから、所謂いわゆる世間一般で言う所の【幸せ】を手に入れる事が出来ないのである。

 そしてそれは、そんな人の事を愛してしまった私もしかり。

 それでも、あの人と一緒にいられたのなら、私はそれだけで充分なのだけれど、息子のはるには、たくさんの【幸せ】をあげたいのだ。

 

 今日くらい、あの子に夢みたいな幸せを届けてあげたい。


 そんな事を考えながら、私は、財布から今日結果発表のある、ロト6の宝くじ券を引っ張り出した。


【08 】【06 】【02 】【05】【 02 】【05】

 862525《はるにこにこ》


 そこには、私の、心から望む願いが印字いんじされている。

 何故ロト6なんか買ったのだろう?

 あの日の記憶は定かではないのだけれど、気がついたら、私は宝くじ売り場でロト6のマークシートを塗りつぶしていた。

 現在、2億5千万円もキャリーオーバーしているらしい。

 1千万、いや、せめて100万円でもいいから当たってくれないだろうか。

  

 神様、どうかお願いします。私の息子に笑顔をください。

 

 トレンチコートの右のポケットからスマホを取り出すと、私は、すぐさまロト6の当選結果を検索する。


 ロト6 第○○○○回

 20××年12月24日 抽選

 

 本数字

【08 】【06 】【02 】【05 】【02 】【05】

 ボーナス数字

【01】


 1等 1口 600,000,000円


 えっ?嘘?いやっ、まさかね。

 もう一度、宝くじ券の数字とスマホ画面の数字を見比べると、完全に一致している。


 春ニコニコ。


 スマホの画面には、私の心からの願いが、確かに映し出されている。


 私。6億当てちゃいました。


 なんだろう?この感覚。


 今までの人生で感じた事の無い、不思議な浮遊感ふゆうかん

 まるで、この世界をおおう全ての不条理ふじょうりから解放されたかの様な。

 これが、【自由】を手に入れるという事なのであろうか?

 お金が、これ程の力を持っているとは、私の想像のはるか上をいっている。

 たしかに、お金は欲しかったのだけれど、いざ、こうして6億円という大金を手に入れてみると、なんだか思っていたのとまるで違う。

 まぁ、何はともあれ、これで春にケーキとクリスマスプレゼントを買ってあげる事が出来る。

 これもきっと、【心の優しいあの人】の日頃の行いを、神様が見ていてくれた結果なのだと、ありがたく6億円を頂戴しようと思います。

 

 性善説せいぜんせつは、やっぱり正しいのだ。


 最後に勝つのは、やっぱり愛と正義なのである。


 『おーい』

 と、聞き覚えのある声がする方を振り返ってみる。


 身長190cmオーバーの、ニット帽を鼻頭が隠れるくらい目深に被った男が、全力の女の子走りでこちらへ向かって来るのが見える。


 私の最愛の人は、サンタクロースに負けないくらいの温かい心を持っているのです。


 どうか、皆さんの元に、幸せなクリスマスが訪れますように。


 メリークリスマス!


 

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