夢の狭間
山田維澄
夢と現実
夢を見たい
決して醒めることのない夢を見ていたい
それなのに、永遠に醒めることのない夢を見ることなんてできなくて、朝が来たら決まって目が覚める。夢から醒めて、現実へと引き戻される。汚くて醜くて、直視することのできない現実へ。
僕は夢を見ていたいのに.......
夢の中のボクが、僕を嘲笑うかのように言うんだ。
「僕は夢を見ていたいの?」
もう何度も会話してる夢の中のボクは、きっと醒めることのない夢を見てる。だから知らないんだ。辛いだけの、汚れたあの世界を。
―そうだよ。何もかもが思い通りになるこの世界とは違って、現実は残酷なんだ。汚くて醜くて、見ていられないよ。
だから、僕は夢を見ていたいんだ―
目が覚めてしまえば夢は忘れてしまう。僕がいくら夢の中に逃げたって、目が覚めれば虚無感しか残らない。何者にもなることができない虚無感が。
「どうして夢を見ていたいの?現実から目を逸らす事さえできれば夢じゃなくても良いだろうに」
たしかにそうかもしれない。どうせ誰がいてもいなくても、世界は回っていくのだから。
それでも僕は夢を見ていたい。その理由は一つだ。
─夢の中はキレイだし、自由だから─
「夢の中も綺麗な事ばかりじゃないし、自由でもないよ」
─それでも毎日毎日バカみたいに働かされるよりマシだし、キレイなことのない現実なんかより全然いい─
「本当にそうかな」
─何が、言いたいんだよ─
夢の中のボクは飄々としていて、まるで僕の反応を楽しんでいるようだった。
僕をバカにしているのか?
「本当に現実には綺麗な事がないのかな。僕が見ようとしていないだけなんじゃないの?」
─見たくないよ、あんな現実─
「探せば良い所の一つや二つあるんじゃない?」
─例えそうだとしても悪いところの方が多いよ─
例えいいところが見つかったとしても、僕は現実にいたいとは思わない。いいところよりも、圧倒的に悪いところの方が多い。
「じゃあ、交換しようか。ボクと僕」
ボクは、僕とボクの間で人差し指を交互させた。
─そんなこと、できるの?─
「できるよ。僕が夢の中に入って、ボクが現実へ行けば。誰にも気づかれることはないよ。だってぼくらは、一心同体だからね」
ボクが何を言っているのかはイマイチよく分からない。けれどホントにそれができるのだとしたら、願ってもない話しだ。
─ホントにいいの?─
「それはボクが聞きたいよ。もちろんボクはいいよ。僕は?」
─僕も、それでいいよ─
「そっか。じゃあ、」
僕は、ぼくたちは、同時に手を出した。僕とボクの手が触れると、視界が変わるような、世界が変わるような、そんな不思議な感覚がした。
「せいぜい現実を愉しんでよね、ボク。あの汚くて、醜い現実を」
僕は勝ち誇った様にそう言った。
夢の中の世界は僕が、意志を持った者が行く事で汚れ、崩れてしまう事も知らずに。
─じゃあね、僕。夢の中でまた会おう─
かすかに鳥の鳴き声が聞こえてきた。まるでボクが現実へ行く事を賞賛しているように。カーテンの隙間から朝日が漏れ出ている。まるで、ボクの道を照らすように。
さぁ、久しぶりに夢から醒めよう
もう、朝だ
夢の狭間 山田維澄 @yamada92613
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