ACT6【 光とともに生まれるもの 】

 2枚目病院長 ジュン 

【遭遇の夢】




「イザホ、ついたわよ」


 ワタシの頭に、なにかが乗った。


 居眠りをしていたワタシが横を見ると、黒い服を身に包んだお母さまが運転席に腰掛けていて、助手席に座っているワタシの頭に手を乗せていた。


 たしかお母さまの来ている服は、喪服。悲しい式の参加者が着る服だ。

 一方、ワタシはいつもと変わらない黒のワンピース。喪服とあまり変わらないから、このままでいいってお母さまが言ってたっけ。


「さあ、早くおりましょう」


 うなずいて、ワタシは助手席の扉に手を当てる。


 ワタシとお母さまは、葬式に来ていたんだ。

 お母さまの親戚の、葬式だ。




「……!!」


 車から降りると、目の前に立っていた男性が、驚いたように目を見開いた。


「……」


 男性はワタシをじっと見て、口をパクパクと動かしている。


 どうしたんだろう……ワタシが人間じゃないことに、驚いたのかな?

 ワタシは死体をつなぎ合わされて作られた存在だから、体のパーツのバランスが少しおかしい。特に左腕は大きくて、逆に右手は裾から出ていないほど小さい。

 だけどお母さまは気にしなくていいって言っていた。ありのままの姿が、ワタシらしいって。




「フジマルさん、この度はご愁傷さまです」




 お母さまが男性の前にやって来て、おじぎをした。


「あ……ああ、“アリス”さん……彼女は?」

「ええ、以前お話したイザホよ。今日、一緒に連れてきたの」


 そのままお母さまは、ワタシに顔を向けた。


「イザホ、この人はフジマルさん。私のおばさまの息子なの」


 フジマルさんと呼ばれた男性は、後ろ髪が首辺りまで伸びている無造作ヘアに、喪服のスーツを着ている。

 だけどさっきから、ワタシの顔をじっと見ている……

 やっぱり、怖いのかな? お母さまの後ろに隠れてあげたほうがいいかな……


「イザホ、あいさつをしてあげて」


 お母さまに言われたので、すぐに前に出てきておじぎをする。

 するとフジマルさんは自分のほっぺをたたいて、ようやく安心した……というより、納得したみたいに、うなずいた。


「……私の名前は瓜亜 藤丸ウリア フジマル! イザホ、よろしくな!!」


 フジマルさんは気さくそうな笑顔で、ワタシに手を差し伸べた。

 裾から右手を出して握ると、フジマルさんに力強く上下に動かされた。


「イザホ、フジマルさんはね、鳥羽差市で探偵をしているの」


 鳥羽差市……たしか、8年前の事件が起きた地方都市の名前……


「ああ……鳥羽差市は……」


 ……? フジマルさんが、急にうつむいた……




「鳥羽差市は、実に素晴らしいところだああああああああああああ!!」




 !?

 いきなりワタシの左腕もつかんだ!?


「鳥羽差市は紋章の街!! 我々の生活を支える紋章を、日本に広めた街だ!! 私はそこで私立探偵として、愛する街のために走り回っているのだああああ!!!」


 ワタシの両手をつかんだ状態で、フジマルさんに激しく上下に揺さぶられた。


 ワタシは人間じゃないから別に痛くないけど……腕が取れそうでひやひやする。




「フジマルさん」

「――ハッ!!」


 お母さまがフジマルさんの腕に手を当てると、フジマルさんは周りの冷ややかな目線に気づいて、ワタシから手を離し、せき払いをした。


「すまない……私の義母が死んだこの状況で、鳥羽差市の思いがあふれてしまうとは……私も不謹慎だな」

「いいんじゃない? それがフジマルさんなんだから」


 お母さまは口に手を当てて笑ってる。

 そう思っていると、なにかを思い出したように目を見開いた。


「フジマルさん、あの手続きは通ってるの?」

「ええ、もちろんです。ちゃんとアリスさんも見られるように手続きしましたよ!」


 手続き……?




 ワタシはその手続きに興味を持っていることを知らせるために、まっすぐお母さまに目線を送った。











 見たらダメ。




 2年後のワタシがそう思った瞬間、これが夢であることを自覚した。

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